「日本」が「ブランド」だとしたら、その本質的な価値(一番世界に売り込みたいもの)は一体何でしょう?
【ただいま読書中】『今治タオル奇跡の復活 ──起死回生のブランド戦略』佐藤可士和・四国タオル工業組合 著、 朝日新聞出版、2014年、1500円(税別)
初めて地場産業のブランディングに取り組むことにした著者は、「今治タオル」の性能の高さに感動します。この良さが社会に知られていないのはもったいない、と。
ブランディングでまず見つけるべきは「本質的価値」です。それは現場に答があります。それが見つかればそれをどうやって伝えるかの「戦略的イメージコントロール」。コミュニケーションはシンプルな方が効率的ですから、著者は「一番良いタオル」を求めます。しかしそれが難しい。消費者には「タオルはもらい物で十分」という意識が強く「わざわざ買うもの」ではありません。産地でも「良いタオル? 好みはいろいろだからねえ」という返事ばかり。予算の制約も厳しいものです。そこで著者は「ロゴマーク」をまず作ります。今治タオルの「アイコン」です。著者は「50年後に古びていなくて、世界中で使われているか」を基準に、3箇月で300以上の案を出し、現在のマークに行き着きます。さらに今治タオルの「本質的価値」である「安全・安心・高品質」を象徴するキープロダクトとして「白いタオル」を設定します。さらに著者は、プロジェクトの当初から映像を残しておくことにこだわりました。将来全国展開を始めたときに、メディアに活用してもらうためです。先の先まで著者は読んでいます。
実は今治は一丸ではありませんでした。危機感は共有されず組合内部はバラバラで、危機感を持っていても(持っているからこそ)独自路線で危機から脱しようとする企業もあります。それをまとめるのには、ブランド確立とは別の苦労があります。
「東京にアンテナショップを」と6年間著者は言い続け、ついに青山に小さな店を開くことができます。国内で「今治タオル」のブランドが展開されるのと同時に、著者は海外にも打って出ます。「JAPANブランド」としての「今治タオル」を世界に定着させよう、というのです。しかしヨーロッパの硬水で洗濯をすると、今治タオルの柔らかな風合いはすぐに損なわれてしまいます。チャレンジするべき課題は尽きません。
減少していた今治のタオル生産量は、増加に転じました。就職希望者も増えます。廉価な輸入タオルに押され有名ブランドのOEM(要するに下請け)でやっと息をついていた今治タオルは生き残ることができたのです。次は「生き方」が試される番です。売れるようになったことで慢心をして本質的価値を見失うことで転落してしまったブランドは数多いのです。階段を上っていけば、いつか踊り場に出会います。そこをいかに通過するか、その“先”を見据えることがブランディングには必要なのだそうです。「継続は力なり」と言いますが、力がないと継続は無理なようです。