どんなひどい外国人支配の下でも、現地には必ず傀儡政権が出来るものです。それは、「絶対的な権力者のおこぼれに与ろう」とか「どさくさ紛れに(制限されてはいても)権力を振るいたい」という情けない人間が必ず一定の割合存在するからでしょうが、そうではない、たとえば高潔の人が「支配者の要求を少しでも自分が上手くやわらげることで、国民の不利益を減じたい」という意図で参加していることもあるでしょう。ですから「傀儡政権」というだけで、一方的に低く評価するのはやめておいた方が良さそうです。
【ただいま読書中】『平将門(上巻)』海音寺潮五郎 著、 新潮文庫、1967年(75年18刷)、
いま「東北」と呼ばれる地方に、「日本人」と「蝦夷人」とが混じって住んでいた時代。陸奥の鎮守府将軍良将の息子、小次郎将門は、父を亡くし、下総の領地の開拓で鍛えられます。仲の良い従兄弟は貞盛。おやあ、ここでもう“二人”の出会いが。
二人は官位を得ようと京に出ます。そこで将門が見たのは、“東夷”をバカにしながらもその財物をアテにする下賤な根性の貴族たち、荒れ果てた都の裏側、人をがんじがらめにする“政治”。将門が出会った人の中には、明らかに傑物である藤原純友がいましたが、才能のある人は出世ができないシステムが都には完備していました。。
崩れかけた屋敷の中に姫君と乳母を垣間見たことで将門の“ロマンス”が生じますが、これって『源氏物語』の「紫の上」ですよね。で、そこに“お邪魔虫”として登場するのが貞盛。彼はみごとなくらい“憎まれ役”を本書では買って出ています。
疫病が流行り、盗賊団は凶悪化します。将門はそれを退治することで名を挙げますが……世の中は不条理にできていました。失望と憤怒を胸に、将門は板東に帰ります。
郷里は、将門に決して暖かくはありませんでした。強欲な“同族”が、将門の財産(土地)を横領していたのです。強さこそが正義、の時代です。律令制は崩れ去ろうとしており、奪われたものは自力で取り返すしかないと、将門はついに心を決します。周囲の状況でそう心を決めるしかない所に追い込まれた、とも言えますが。
ついに将門の戦いが始まります。将門と親戚との戦いは、将門から見たらただの正当防衛ですし、外的にはただの同族同士の内紛です。しかし、その親戚の誰かに都とつながりがあると、話はこじれていきます(そういえば、平泉藤原氏の初代清衡も、もとは同族同士の争いに鎮守府が絡んで安部氏が滅ぼされ……ということで人生のスタートを切ったのでしたね)。そして、案の定、ここから将門の運命は大きく変わっていくのでした。