【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

HG

2012-03-20 18:04:19 | Weblog

 「H・G・ウェルズ」の「H・G・」って何の略か、考えたことがあります?(実は私はありませんでした)

【ただいま読書中】『白壁の緑の扉』H・G・ウェルズ 著、 J・L・ボルヘス編纂・序文、小野寺健 訳、 国書刊行会、1988年、1800円

目次:「白壁の緑の扉」「プラットナー先生奇譚」「亡きエルヴシャム氏の物語」「水晶の卵」「魔法屋」
 「白壁の緑の扉」……5歳の時に特別な扉を通ったら、そこは不思議な幸福感に満ちた「庭」だった、というウォーレスの思い出話を聞かされた友人の語りです。学業優秀で出世街道を驀進して国会議員から閣僚にまでなったウォーレスですが、人生の節目節目になぜか「白壁の緑の扉」の前を出会います。そのたびにその内部に(幸福感に)憧れを感じ扉に手をかけたいと思うのですが、時間や名誉に追われて通りすぎてしまいます。功成り名を遂げて、しかし満足感のない人生。ウォーレスは「扉」を求めて夜の町を徘徊することになってしまいます。そして……
 「扉」は一つのシンボルでしょう。人生の選択、もしかしたらあり得たかもしれない多重宇宙、壺中の天地。「灰色の現実」の中で成功しているからこそ「扉の向こう」に憧れを感じてしまうのは皮肉です。しかし、そうやって“揺れる”のも、また人間なんですよね。
 「プラットナー先生奇譚」……「人体は左右対称ではない」を元ネタとした短編です。いや、それだけの話なんですけど、奇怪な読後感に襲われます。ここでは著者本人の教師体験が生かされていますね。
 「亡きエルヴシャム氏の物語」……これは……何を書いてもネタバレになりそうです。老人と若者に関する怪談、と言ったらいいかな。それもとっても皮肉な味付けの。
 「水晶の卵」……こちらには当時の光学の知識が生かされています。剥製や骨董を扱うケイヴ氏が大切にしていた“売り物”の水晶の卵、それは不思議な光を発していました。それをある角度から見ると、不思議な風景が見えます。地球とは違う風景が。ただし、夜空の星座は同じですから、おそらく太陽系のどこかです。おや、小さな月が二つ。……ここは、火星? するとそこで動いているのは……火星人?
 「魔法屋」……いや、英語だと看板はふつうに「Magic Shop」なんでしょうね。しかしそのお店の中では……この不思議とユーモアと恐怖感の混淆を読んでいて、私はブラッドベリのテイストを思い出していました。

 自分の人生の断片や当時の科学の最先端の知見など、「一つの材料」を上手に“料理”して“美味しい”短編に仕上げてあります。タイムマシンや透明人間とはちょっと違ったテイストを味わいたい人には、お勧めします。