【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

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2012-03-08 18:53:13 | Weblog

 たまたま赤信号で止まったら、交差点の向こうに回転鮨の店がありました。見ていると、右側から来たタクシーが右折してぴたりと店の前で止まり、1家族がぞろぞろと降りて楽しそうに店に入っていきました。おやおや、わざわざタクシーで来るくらい美味しいのかな。で、駐車場を見ると、ベンツとかセルシオとか、なにやら高級な車も止まっています。プチ“贅沢”な、回転鮨?

【ただいま読書中】『銀色ラッコのなみだ ──北の海の物語』岡野薫子 著、 講談社文庫、1975年(85年6刷)、300円

 個人的にはとても懐かしい本です。子供の時に「ラッコ」という動物がこの世に存在することを知り、その生態がとても珍しくさらにはラッコが絶滅の危機に瀕していること、そういったことを私は本書で“学び”ました。私の脳にある「生態学」とラベルが貼られた部分には、本書がしっかりはめこまれています。
 エスキモーの小さなで暮らす8歳の男の子ピラーラは、次の冬にはお父さんにアザラシ猟に連れて行ってもらえることになっています。ここでさりげなく描写される彼らの“日常生活”の厳しさは印象的です。
 ラッコは、そのきれいな毛皮を求める人間の欲望による乱獲によって絶滅したと思われていたそうです。しかし、北へ逃れた群れがいました。その群れに、変わった赤ん坊ラッコが生まれます。首の回りに輝く銀色の毛がはえていて、他の子よりも泳ぎを早く覚えた「銀色ラッコ」です。
 ピラーラと銀色ラッコの出会いは、両者とも命の危険がある状況ででした。ピラーラは流氷に乗って流されてしまい、ラッコは群れからはぐれていたのです。北の海は過酷な環境です。そのまま両者が死んでいてもおかしくなかったでしょう。
 二度目の出会いは、大人に目撃されてしまいました。「金になるラッコ」の発見に、ピラーラの父親は喜びます。ただし、すぐに狩りを始めようとはしません。絶滅しかけた群れが増えて十分な数になったら、「海の母」の許しを得て狩りをしようと考えます。
 子供の時には見逃していましたが、ここには「オオカミを獲りすぎたら、カリブーが増えた。ところがカリブーが増えすぎて餌が足りず、どれもやせこけている」とあります。やっぱり真っ当な生態学です。著者は「可愛い動物を保護しましょう」とか「エコな私って素敵」といった甘ったるいことは書きません。ラッコは完全に擬人化されていますが、こういった真っ当なエコが“背骨”として通っているから、その擬人化がちっとも気になりません。
 ピラーラの不注意からラッコのことを知ったエスキモーたちは勇み立ちました。悠長に育つのを待ってなどいられない、すぐに狩りに行こう、と。撃つ数は制限します。しかし……その毛皮を交易所に出したら、何が起きるでしょう?
 長を殺されて混乱する群れを率いたのは「銀色ラッコ」でした。新しい住処を求めて北の海を逃げ出します。しかし、ケルプと餌に恵まれた海域は限られています。彼らがたどり着いたのは、かつてラッコたちが人間に襲われて全滅した海域でした。
 エコロジーと人間の両立は難しい問題です。結局ラッコは保護され、数が増えました。しかしそれで「メデタシメデタシ」ではありません。ラッコが大量に食べる、アワビ・ウニ・カニは、人間が食べたいものでもあるのです。当然そこに「問題」が発生します。
 本書ではそのこともしっかり記載されています。子供に対して、手加減無しに「難しい問題」の難しさをきちんとわかるように伝えている本書は、すでに「古典」と呼んでも良いのではないかと私は考えます。