村治佳織リサイタル(サントリーホール) - ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> 村治佳織リサイタル(サントリーホール)

私にとって2008年最後の大きなイベントとして、12月7日14:00、東京赤坂にあるサントリーホールにおいて村治佳織さんのリサイタルが行われた。
 このホールはテレビでもよく見ることができるので皆さんもご存知でしょう。ステージの後ろにも席が設けてあり、収容人数は2000人。この大きなホールがこの日は満席で、我々関係者に対し大入り袋が配られた。ステージの袖から眺めてみると、それはもう圧巻。あたかもウィーンフィルかベルリンフィルでも来たのかと思えるほど。
 これだけの人たちが、村治佳織さんただ一人の演奏を聴くためだけに、日曜日の午後、ここに集まってきたのだと思うと、なんとも言えない感動で鳥肌が立った。
 各界の著名人も多く、ジャズギタリストの渡辺香津美さんの姿も見かけることができた。
 たった一人の女性ギタリストのリサイタルに、なぜこれほどまでに大勢の観客が詰めかけるのだろう。彼女は年間国内でも数十回のリサイタルを行っていますが、そのコンサートのほとんどを満席にしてしまう。それも聞けば殆んどが全国各地からのラヴコールによって開催されるコンサートとのこと。つまり事務所としても、今や村治さんを売り込む必要はまったくないそうだ。それほどまでに彼女の演奏を聴きたい、彼女の演奏する姿を見たいという人たちが全国に大勢いるということなのでしょうが、楽器の種類を問わずとも、クラシック音楽の世界に、こんなアーティストが他に存在するでしょうか。
 私の知り合いに彼女と同世代の女性がいますが、彼女によれば、人気と実力を兼ね備え、一人の人間として自分の進む道を敢然と歩んでいる村治さんの姿、生き方に痛快さを覚え、また憧れをも感じるのだそうだ。
 今年村治さんのコンサートの音響を受け持たせてもらうのはこの日で11回目。そういえば昨年も同じ11回でした。その都度彼女の近くで、彼女の人に対する接し方を垣間見させてもらっていると、そんな彼女の魅力が伝わってくるし、どこへ行ってもその地のホールを満杯にしてしまうほど皆が彼女を愛していることが理解できる。

 今回のリサイタルは、以前から「バッハに真剣に取り組みたい」と言っていた一応の集大成。全てのプログラムがバッハの作品、ないしはバッハに繋がる作品ばかりで、プレイズ・バッハと銘打ったコンサートでした。
 第1ステージ、私がずっと楽しみにしていたリュート組曲第4番 BWV1006a全曲。そしてヴァイオリンのためのパルティータ第2番 BWV1004全曲と超大曲が並ぶ。演奏の開始からこんな重厚なプログラムを打ち出すなど堂々たるものだ。後半はフルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BWV1034を能楽の笛の名手“一噌幸弘”さんの和笛と合わせ、次にはヴィラ=ロボスによるギターのための5つの前奏曲を演奏。そしてその後は東邦学園の学生メンバーによる弦楽合奏をバックに、同じくヴィラ=ロボスのバッキァーナス・ブラジレイラス 第5番。最後にバッハに戻って最近彼女がよく弾いているG線上のアリアで締めくくった。

第1曲目、彼女にしては珍しく細かい技術的なミスも散見されたが、それもリハーサルから立ち会っていた私としては、当日会場での練習の時間をほとんどアンサンブルに取られてしまって、自分のソロに当てる時間が無くなってしまい、第1ステージがぶっつけ本番のようになってしまったからなんだよと「言い訳」を代弁したくなるほどの状況であったことを考えると、その後の彼女には素晴しいものがありました。確実無比のテクニック、そして颯爽とした、しかもとても清潔感あふれる演奏を展開。「そう!これがいつもの村治佳織よ!」と、こちらの気分も爽快になってきます。
彼女の弾くシャコンヌは、今私の一番のお気に入りだし、相変わらずヴィラ=ロボスの前奏曲は、なぜだか日本の「能」の世界を呼び起こさせてくれます。
いかなる時も過剰な表現は一切せず、かといってひとつの不足も無い彼女の音楽は、あくまでも音楽という芸術に純粋に奉仕するかのごとく、この日もまっすぐでした。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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