世の中には昔から現在に至る迄、ジャンルに関わらず無数の曲が作られ、残されています。クラシックのギター曲に限定しても恐らく一生かかっても弾き切らないほどの曲があるでしょう。自然淘汰されて残った曲でも膨大な数になります。そのような曲には作った人の、また作者不祥の曲でもその時代の感情や知性の努力の跡がみられ、頭が下る思いです。
さて、ご存知のように曲はたった一つの和音で出来ている訳ではありません。最低でも主和音と属和音から作られています。この二つの和音から作られた曲は結構あります。ですが、大体主要三和音と云われるI・IV・Vの和音で構成されています。複雑な曲ともなればそれに副三和音と称される一群の和音(図1)や頻繁な転調も使われています。
しかし、色々な和音をランダムに並べている訳ではありません。一定の法則に則って和音は進行していきます。各々の和音の性格を長い時間をかけていかに違和感のないスムーズな流れになるのかを追求した結果、基本的な連結方法に集約されました。これをカデンツといいます。
今回はこのカデンツについて少し述べてみましょう。カデンツは作曲や編曲・伴奏等の指針となる和音進行の定石と云っていいでしょう。これを知ってると知らないでは楽曲の理解に雲泥の差が出て来ますので、是非体得しましょう。
カデンツの公式?は図2のように、1)T+D+T 2) T+S+T 3) T+S+D+Tの三種類に分類されます。Tは主和音Tonicの略、Sは下属和音Sub Dominantの略、DはDominantの略です。
ここで注意しなくてはならない事はD+Sの進行がないということです。即ち属和音から下属和音への進行はまずないものと覚えてください。但し、それは長調に限ってのことで短調の曲では往々にみられます。短調ではあまり違和感がないのでしょう。ですが基本的にはD+Sの進行は始めのうちは使わないようにしましょう。
さて、この三種類のパターンをさらに集約しますとT+S+D+Tの一種類になります。
T+D+TはSの省略した形、T+S+TはDの省略された形とみるわけです。
一種類なら覚え易いですね。
次にT(主和音)にはⅠの他にⅥがあります。同様にS(下属和音)にはⅣの他にⅡ、Ⅱ7があります。Ⅱ7は殆どⅡの6の形(第一転回形)で使います。叉、D(属和音)にはⅤの他にⅤ7(属七)、Ⅶ(導七)、Ⅶ7(減七)等があります。これらを副三和音といいます。
ⅤよりもⅤ7のほうが多用されていますし、Ⅱ7の6の和音はむしろⅣよりも多く使われています。Ⅲの和音は殆ど使われませんが、強いて分類すればⅠの代理または状況においてはⅤの代理として使われるようです。
次に大事なことはTの中での和音進行はⅠ+Ⅵでその逆はありません。同様にSの中ではⅡ+Ⅳもありません。またDの中でもⅤ7+ⅤとかⅦ+Ⅴの進行はその第七音の処理が出来ない故をもって使われません。主要三和音と副三和音の関係とT,S,Dの進行関係を表にしたのが図3です。ⅠⅥⅣⅡⅤⅦⅠ(イチロクヨンニゴーナナイチ)と呪文のように覚えてください。
覚えましたらその和音がどの調でも瞬時に思い浮かべられるに、指で覚えられればなお結構です。これは大変ですが、作曲や転調を考える時結構役に立ちます。
最後にTの主和音系は安定している分だけ、あまりいじりようがありませんが、Sの下属和音系は♯や♭をつけて変化させますと曲に微妙なニュアンスを与えたり転調に使えますし、Dの属和音系はさらに三度づつ音を積み重ねて9や11・13和音として使えば、その刺激的な響きを使ってシャレた終止で曲を飾ることができます。
次回は「転調」について考えてみます。
服部 修司
| Trackback ( 0 )
|