4年ぶりの“ジョン・ウィリアムス”来日公演 - ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> 4年ぶりの“ジョン・ウィリアムス”来日公演
 2005年秋(9月)、リチャード・ハーベイと共に愛知万博のコンサートに出演して以来、4年ぶりに来日したジョン・ウィリアムスのリサイタルが、11月の1日(日)、大阪の福島区にあるシンフォニーホールで行われた。
当日はお昼頃から雨が降り始め、少し肌寒いくらいの生憎のお天気。1700人入るこのホールに観客の入りはほぼ7割くらいといったところだろうか。大阪でしかも世界のジョン・ウィリアムスのリサイタルで、また入場料も先回来日の時に比べると少し安くなっているにもかかわらず(A席=¥8000)この人数ほどの会場が全て埋まらないとは、やはり世間の景気がかなり冷え込んでいるのが影響しているのかもしれない。
そして当日のプログラムもA3二つ折で、しかも単色刷りの簡単なもの。昔は来日ギタリストが行うリサイタルのプログラムというものは全て有料で、当時でも500円から800円ほどしたと記憶している。学生の身分でお金の無いころ故、当然チケット代を工面するのがやっとで、プログラムが欲しくても買えずに我慢をしていたことがよくあった。中には随分立派なプログラムもあって、実のところ買える人がうらやましかったものだったが、今回のようにチケットを切ってもらうときに配られる簡単な紙切れが、この天才ギタリストのリサイタルのプログラムというのも何だか淋しいような気がする。
日曜日ということもあって午後2時から開演したリサイタル。ジョンはいつものようにまったくラフなスタイルで登場。丸首に横ストライプの入ったシャツにゆったりしたズボン。まったく今空港に降り立ったばかりといった服装。こんないでたちでギターを片手に現れたジョンは大変にこやかに、またあちこちに向かって丁寧に挨拶をする。好感度抜群といったところ。
まず最初はジョンが最近よく弾いているヴィヴァルディの協奏曲で今回は作品3-9。全楽章をあざやかにしかも楽々と弾きミスなど最初から皆無。次はスカルラッティのソナタ2曲。K.448と175、どちらもジョンがずっと以前LPにも録音している曲だ。レコードやCDで聴くとなんてことはない曲に思えるのだが、目の前で実際に弾かれるとほれぼれするほど理に適った立派な演奏で、まるでオリジナル曲のように聞えてしまう。そしてその後はグラナドスの「詩的ワルツ集」とアルベニスの「朱色の塔」が続く。おそらく自分でもギターをやられる方はこのジョンの弾く「詩的ワルツ集」を楽しみにされていたのではないだろうか。最初の曲の冒頭、ジョンには珍しく弾き直しをしたが、あまりに瞬間的なことで、詳しくない方にはほとんどわからないようなご愛嬌程度。その後は流れるような甘い旋律、そして溌剌としたリズムが続き、いつものように不自然さのまったくない完璧な演奏だ。これもこの演奏以上のものを私は知らないし、知る必要も感じない。そしてジョンが22歳で日本に始めて来日した時も弾いたアルベニスの「朱色の塔」。この曲はジョンが17歳のときに入れたデビューレコードにも入っている曲だ。あのとめどない音の連続を、ポジションを移動しながら左指で押さえて右指で弾くという過程を踏まなくてはならないギターという楽器で、どうしてあれほど流れるように弾けるのか。実際に演奏を目の当たりにしながらも尚信じられないような薫り高い音楽が途切れずに流れてくる。私はこの曲を聴けただけでも、この日来た甲斐があったと思った。
第1ステージ最後の曲はジョンが自ら作曲したという「ノーツ・イン・ザ・マージン」。ちょっと無国籍風で不思議な曲。ただあまり印象に残るような曲ではないのが残念。
第2ステージはバリオスの大聖堂から始まったが、やはり表現、テクニック、いずれをとっても私にはこれ以上は必要もないほどの完璧さだ。ギターの場合音色の変化は普通やり過ぎと思えるほどオーバーなものが多い中、(セゴヴィアですら下品なほどブリッヂの近くで弾くカチカチの音を出すことがある)ジョンのそれは控えめながらとても適切で効果的。とにかくジョンの真の魅力はCDでは伝わり難く、ぜひとも生の演奏を聴いてほしい。
次はジョンがよく取り上げる“スカルソープ”というオースオラリアの作曲家の「ディジリ(オーストラリアの伝統楽器の名)」。音楽としては残念ながらあまり日本人好みとは言いかねるが、オーストラリア生まれのジョンにしてはやはり郷愁のようなものを感じているのかもしれない。
そしてそのあとは「シンドラーのリスト」、「ニュー・シネマ・パラダイスのテーマ」、デァハンターに出てくる「カバティーナ」と映画音楽が続くが、特にカバティーナについてはやはり「本家本元」といった感があり、映画音楽ならではの表現が絶妙で、胸に迫るものを感じさせられた。
そしてその後は再度ジョン自ら作曲の小品を4曲、そしてさらにジョンの編曲による「アイルランドの歌」と題した民族色豊な、これまた小品が4曲。芸術的な価値はともかく親しみ易い旋律がジョンの素晴しいテクニックに乗せて歌われ、クラシックの演奏会という堅苦しさをまったく感じさせないジョンならではのパフォーマンスでもあった。
ものすごい拍手が続いたのち、アンコールには以前CDにもなったアリリオ・ディアス編になるベネズエラの哀愁をおびた民族的な作品が2曲、そして最後はイタリア民謡の「カタリ・カタリ」で締めくくったが、ギター1本で情感たっぷり、観客もしんみりと泣けたコンサートとなった。
今年68歳になるジョン・ウィリアムスだが、その強靭なしかもなめらかなテクニックはいまだ健在、少しも衰えてはいなかったのを見てほっと安心した。端正で理に適った構え、確実な右手の弾弦、明瞭でよく通る音色、そして少しの無理も無い左の肩、肘、そして腕、手、指の動き。全てが初めて見たときのままであり、見ていても「絶対に間違えるはずがない」とさえ思えるほどギターを弾くということの理想形がそこにはある。全てのギタリストはジョン・ウィリアムスを手本とすべきであろう。この代われる者なき偉大なギタリストの演奏を、私たちはあと何回目にすることができるだろうか。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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東京公演に行きました (安岡)
2009-11-09 12:23:36
私埼玉県でギターを弾いているものです。

東京公演に行きましたが,おっしゃる通り素晴らしいものでした。

スモールマンのPAであったり,さらっと弾いてしまう演奏スタイルであったり,なぜか非難の対象になることが多い彼ですが,生で聴いたらそのような非難は全くの的外れであると感じました。

目をつぶって聴くと本当に素敵な音楽空間が広がりました。

また何より,彼の演奏は聴き手に親近感を感じさせるので,猛烈に「ギターを練習したい!」という思いを抱きました。

また公演があったら行きたいですね。
 
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