日本の銀行の特質
つまり私たちは銀行しか知らなかったのです。幸せだったのですね。お金とは銀行に預けるもの。その銀行も大蔵省や日銀が監査してくれているから、絶対潰れない。だから住友銀行がいいとか、三菱銀行がいいとかではなくて、駅の近くの銀行に行っていたのです。また地方自治体の力が強かったから、例えば京都府などは巨大銀行をいれなかったのです。周辺しか入ったらアカンと。そういう意味で信用金庫が京都府ではものすごく力があった。許認可権があったから。われわれ庶民は近くの銀行、その銀行を選ぶ基準は大きな銀行も小さな銀行も、利子は、例えば、五・五%に統一されている、銀行を選ぶとき、会議の会場を貸してくれるかとか、地域運動会をするときにビールを提供してくれるかとか、その程度の基準で選んでいた。その程度で選んでいたということは逆にいえばどこでもよかった。つまり預けっぱなしなのです。
一つ今日は覚えて帰ってください。奥様という言葉は日本語独特の言葉でありまして、外国語にはありません。ベターハーフとか、ワイフとか、ハニーとかはありますが、外国語には奥様という単語はありません。つまり台所に鎮座ましまして、そこでご飯の切り盛りをする人。つまり家庭の大蔵省。日本の男性は教育されましたね。いまは知りませんが。われわれは親父から教育されました。給料の封を切らんと渡すのが男だぞと。そしてすみません、今日、コンパがあるので千円ください、そんな交渉ばっかり奥様とやっていました。
奥様は、バーゲンで目の色変えて走り回る。私なんか、男だったら千円で酒を飲むの、格好悪いですよ。いい格好して、金を使い、あくる日ラーメン食っているわけです。奥様はそんなことは絶対しない。必死になってやりくりする。この奥様の権力が強いゆえに、わが国は希有なる高貯蓄国だったのです。この高貯蓄を銀行が一手に引き受けている。その銀行が長期投資をずっとしていく。しかも貸付係はものすごい力を持っている。貸付係になることによって、偉い人になったな、あの人は、というシステムになっていました。貸し手責任というのがありました。それが長期の投資にずっと回っていって、お金を返すというときに、ほとんどの銀行は「返さないでください、利子だけ払ってくだされば結構です」というように、日本の企業は安定した資金を持つ銀行からの長期的な融資によって支えられていた。
これにアメリカは気づいたわけです。これを叩き潰せと。アメリカ人は何をやっていたか。株ばかりやっていたわけです。銀行にお金を預けません。株屋さんです。株というのは大体一週間で売買される。株式による資金調達は安定的なものではないのです。危なくて株による資金調達、できません。ところが日本では長期的な投資を銀行が担っていた。例えばコンパクト・ディスクなんてずっと赤字でしたよね。でも銀行が一生懸命、「頑張れ、頑張れ、面倒見る」といって、結局コンパクト・ディスクは日の目を見たでしょう。ああいったことを考えていきますと、日本の銀行とアメリカの金融機関には、企業を育てていくという意味で雲泥の差がある。そこでアメリカは日本の銀行を潰せとなった。
日本の銀行を叩き潰せ
潰せとなってきたときにさすがアメリカ。頭がいいのです。悔しいけれども。理路整然と来るのです。日本の銀行を潰す理論がすごいんです。日本の銀行は自分のお金を持っていないじゃないか。預金とは、客様から預かっているお金ではないか。借金ではないか。しかも一年で返さなければならないものを、五年とか十年とかの長期投資に使うとは何事か。自分の金で勝負しろとやってきた。ここに出てきたのがBIS規制、つまり銀行の持つ資本、これがどのくらいあるか。自分の持っている資本の十二・五倍を超える貸し出しは禁止だという国際協定を結んでしまった。あのころから私は絶対反対しろと言ってきたんですけど。株も資本の中に含むというので銀行はことの恐さがわからなかった。だんだん分かってきました。
日本のマスコミは実に情けない、腹が立つ。本当に恐ろしいのはテレビです。日本長期信用銀行などを全部素っ裸にしていって、自己資本規制がクリアできてない、どこどこの銀行は〇%だとかという報道が相次いだ。われわれはあわてて、エッ、あの銀行が潰れるのかとお金を引き出して郵便貯金に行った。その逃げ込んだ先が民営化なのです。わかるでしょう。あの親分は某銀行の頭取だったのです。あの民営化のときに、ゴールドマン・サックスがコンサルタントだったのです。でき過ぎですよ。できレース過ぎますよ。
それはともかく、そこで日本の銀行は潰されました。二十一行あった銀行が三行になりました。いかにマスコミの攻撃がすごいか。本当に恐いです。そういうことがあって日本の銀行は潰されていきました。次どういうことになったかと言いますと、結局お金は余る。お金は余るけど、貸付先が無い。そのお金は結局アメリカの銀行に預ける。アメリカの銀行はレジメに出している証券業務になっていくわけであります。こういう流れになってくる。時間が迫ってきましたが、今は、とにかくいかにお金というものが間違って使われているかだけを説明したいのです。
マーケットなんて無い
実はみなさんに一つだけ訴えたいのです。マーケットなんてありません。需要と供給で価格が決まるなんて絶対ウソです。本でも私が店にはいった左手に平積みにされたら、売れます。いい本を安く、なんてウソです。奥のほうに並べられたら終わりです。私は自分の本を奥のほうから抜き出してきて、そこに置くのです。
一周して帰ってきたら売れているのです。ざまー見ろ。これがマーケットなのです。狭い売り場をどう独占するかという力なのです。
日本は新日鉄とか、造船とか銅とかすごい企業があります。一番基礎的な産業です。この連中が作った品物はわれわれに売らないんです。一番恐いプロに売る。新日鉄の製品をみなさん買ったことがありますか。新日鉄の鉄はトヨタが買うんです。そうなってくると、新日鉄がいくら高く売ろうと思っても、トヨタですよ、天下の。「誰にものを言っているのか」で終わりですよ。「はいー」となりますよ。「せめて、われわれも企業体ですから、従業員を抱えていますから」、「そんなの我慢しー」と言うでしょ。トヨタは実物の売りの儲けよりもトヨタ銀行とわれわれが尊称しております金融業務で散々儲けてきた。はっきり申しましてプロ相手の商売は儲からないのです。素人相手の商売が儲かるのです。だから農業は儲からないのです。一生懸命、お百姓さんが必死になっても売る先が巨大スーパーなのです。それはあきませんよ。
スーパーが値段を決めるのですから。とにかく市場を復興させてください。歩いていける市場で、この会場の下は市場でしたよね、やりとりしながらのときはお百姓さんは生きていけたのですよ。スーパーの大独占体になってしまった。価格決定権を生産者がもつか、持たないかの決定的な違いです。