消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(142) 新しい金融秩序への期待(142) 大きな国家(11)

2009-04-24 07:00:21 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)
(17)  ベーシス・スワップとは、変動金利と変動金利のスワップ取引のこと。異なるリスクを持つ変動金利をスワップする取引、異なる期間を持つ変動金利をスワップする取引、異なる通貨の変動金利をスワップする取引などがこれにあたる( http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_2712.html)。

(18) 一九三三年銀行法のこと。このグラス・スティーガル法(Glass-Steagall Act P.L. 73-66, 48 STAT. 162)は、一九九九年の金融近代化法ができるまでの六六年間、曲がりなりにも機能していた。米国社会には、ジェファソニアン・デモクラシー (Jeffersonian Democracy) の伝統がある。州権の尊重、 金融独占に対する反発、 コミュニティ重視等々がその内容である。

 その原則に基づいて、世界大恐慌以降の米国の預金金融機関制度は、一九七〇年代半ばに至るまで、一九三三年銀行法 による厳格な規制下に置かれてきた。 この規制の骨子は三点あった。

 ①預金金利規制。世界大恐慌以前の米国の銀行は、 預金獲得のために、ハイリスクの融資先に貸し付けていた。一九二九年一〇月二四日の株価大暴落と、 それに続く世界大恐慌のなかで、こうした銀行の多くが破綻に追い込まれたため、 一九三三年のグラス・スティーガル法では、 要求払い預金 (いつでも引き出せる預金) に対する付利を禁止し、 さらに連邦準備制度理事会 (Board of Governorsof the Federal Reserve System) の前身である連邦準備局 (Federal Reserve Board) に対して、 同制度加盟銀行定期預金上限金利を規制する権限を付与した。 FRB (「一九三五年銀行法」 (Banking Act of 1935 P.L. 74-305, 49STAT. 684 )により連邦準備局を継承) は、 連邦準備制度法に基づく 「レギュレーションQ(Regulation Q)」 によりこの規制を成文化し、金利競争が過熱しないよう上限金利を低く抑制してきた。

 ②地理的業務規制。銀行の過度の拡張主義を防ぐため、 銀行の支店設置可能な地域は、 「一九二七年マクファーデン法」 (Mc-Fadden Act of 1927 P.L. 69-639, 44 STAT. 1224)及びグラス・スティーガル法によって、 国法銀行・州法銀行いずれの場合においても州銀行監督当局により規定されるものとされた。 大部分の州では、 州銀行法によって州境を超える支店(州際支店) の設置を禁止しており、 また商業銀行の州内への支店設置も認められなかったため (これを単店銀行制度 (Unit Banking System)という)、 この規定は銀行の営業範囲を厳格に規制するものとなった。 結果として、 米国は欧州・日本と比べて、 小規模な銀行が多数存在する金融構造を持つことになった。

 ③業務範囲規制。世界大恐慌時の株価暴落に伴って、 高リスク、 高利回りの不健全な証券へ投資をおこなっていた銀行は経営危機に陥った。 また、 銀行が証券業務に参入することは、 系列証券会社の関与した証券の売却を促進・成功させるため、 銀行の当該証券の発行者に対する与信判断が甘くなったり、 あるいは倒産寸前の融資先企業に系列証券子会社を通じて社債を発行させ、 調達された資金を融資の回収に充当して倒産リスクを投資家に転嫁するといった利益相反が発生する懸念があった。このためグラス・スティーガル法では、 以下の四か条により、 銀行業と証券業との分離を厳格に規定していた (この四か条をとくに 「グラス・スティーガル条項」 といい、 狭義では同条項のみを指して 「グラス・スティーガル法」 の語を用いることがある)。(1)銀行本体で証券業務をおこなうことを禁止する。 米国債や州の一般財源債などの「適格証券」 を除き、 株式・社債 (これを「非適格証券」 という) の引受けやディーリングを、 銀行が自己勘定でおこなうことはできない。(第一六条)。(2)銀行は、 銀行本体でおこなうことができない証券業務に主として従事する会社と系列関係を持つことができない (第二〇条)。証券会社は預金受け入れをおこなうことができない (第二一条)。(3)銀行の役員は証券会社の役員を兼任してはならない (第三二条)。またグラス・スティーガル法では銀行が保険業務その他の一般事業会社を所有することの禁止が明文化された。

 グラス・スティーガル法はこうした規制を通じて金融制度の安定化を図る一方で、 連邦預金保険公社 (Federal Deposit of Insurance Corporation=FDIC) を設立して預金保険制度を創設した。さらに 「一九五六年銀行持株会社法 」(Bank Holding Company Act of 1956 P.L. 84-511, 70 STAT. 133 )では、 ある州に本社を置く銀行持株会社が、 他州の銀行を取得することが明確に禁止された。 ただし、この一九五六年の法にある、ダグラス修正条項 (Douglas Amendment) により、 進出先の州法が明示的に許容している場合には取得が認められた。 この場合には銀行持株会社を利用して複数の州の銀行を子会社として傘下に置くことによって、 州際業務をおこなうことが可能であった。この法では、 当初、 複数銀行持株会社 (二つ以上の銀行を傘下にもつ持株会社) のみを規制し、単一銀行持株会社 (傘下に一つしか銀行を持たない持株会社) を規制の対象外としていた。 このため一九六〇年代末には、 単一銀行持株会社の形態を取って、 銀行が一般事業に進出することが盛んになった。 しかし、この抜け穴は、「一九七〇年銀行持株会社法修正法」 (Bank Holding Company Act Amendments of 1970 P.L. 91-607, 84 STAT.1760)によって塞がれた。一九三〇年代に確立した米国の金融制度は、 以後約半世紀にわたり継続した。

 米国の預金金融機関には大別して①商業銀行、 ②貯蓄金融機関、 ③クレジット・ユニオンの三種類があり、 商業銀行はさらに、 連邦法免許の国法銀行 (National Bank) と各州銀行法免許の州法銀行 (State Bank) の二種類に分けられる ( 「二元銀行制度」 という)。国法銀行は連邦準備制度・連邦預金保険制度への加盟が義務づけられるが、 州法銀行の両制度への加盟は任意である。 ただし連邦準備制度に加盟した州法銀行は、 連邦預金保険制度にも加盟しなければならない。連邦準備制度に加盟していない銀行に対しても、 一九三五年、 FDIC(上述) に定期預金の上限金利規制権限が付与され、 レギュレーションQと同水準の金利上限規制が適用された(樋口[2003]に依拠)。

(19) MMMF(Money Market Mutual Fund)は、一九七一年に創設されたオープンエンド型の投資信託。高利回りの短期証券(CD、CP、TB、BAなど)で運用するもの。換金が自由なほか、小切手の振り出しも可能なことから、銀行預金の強力な対抗商品として急成長した(http://ten-navi.com/fin/glossary/a/52.php)。

 オープン・エンド型(open-end type)とは、いつでも換金可能なタイプの金融商品。CD(Negotiable Certificate of Deposit)は、譲渡性預金証書の略称。第三者に譲渡可能な銀行の預金証書。日本では、一九六一(昭和三六)年に米銀によって導入された。日本のCD市場は、一九七九(昭和五四)年に証券会社の債券現先取引に対抗して創設された。銀行が企業の余裕資金を吸い上げる手段として考え出された取引で、日本の自由金利商品の先駆けとなった。

 CPは、コマーシャルペーパー(Commercial Paper)の略。信用力のある優良企業が割引方式で発行する無担保の約束手形。日本では、一九八七(昭和六二)年に創設された。

 日本のTB(Treasury Bills)は、短期国債、短期割引国債、割引短期国債などと呼ばれている。TBは、一九七〇年代後半から大量に発行された国債の、償還・借換えを円滑におこなうための資金繰りとして、一九八六(昭和六一)年から公募入札方式で発行されている。米国では財務省証券のこと。

 BA(Banker's Acceptance)は、銀行引受手形。輸出入業者などが貿易決済のために振り出し、銀行が引き受けた期限付為替手形。銀行は、自らを支払人として期限付為替手形を引き受け、BA市場で売却して資金を調達する。市場では、投資家やディーラーに転売される。BA市場は、ニューヨークやロンドンでは発達しており、主要な短期金融市場となっている。円建BAは、円建期限付為替手形。日本では、一九八三(昭和五八)年一〇月の「総合経済対策」で円建BA市場の創設が検討され、一九八四(昭和五九)年五月の「日米円ドル委員会報告書」で円建BA市場の創設が決定され、一九八五(昭和六〇)年六月に円建BA市場が創設された。創設直後には五八七億円の残高(一九八五年六月末)があったが、現在、取引はほとんどない(http://www.findai.com/yogo/0035.htm)。

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