消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(74) 新しい金融秩序への期待(74) 

2009-02-06 18:56:55 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)

野崎日記(74) 新しい金融秩序への期待(74) 構築が急がれる金融犯罪防止の新しい金融システム(4)


   4 詐欺まがいの金融取引


 08年8月18日に経営破綻したアーバンコーポレーションが、破綻前にBNPパリバ(Banque Nationale de Paris Paribas)から食い物にされていたことが明らかになった。

 
パリバに設置された外部検討委員会が08年11月11日に公表した調査結果では、パリバの行動を「市場を軽視した極めて不適切な行為」であり、アーバンコーポレーションへのパリバの働きかけは「顧客であるアーバンコーポへの背信であり、(パリバ)の日本代表ら経営幹部の責任は免れない」との批判が出された。外部検討委員会の委員長は、「(パリバの)内部管理体制が形骸化しており、顧客重視の姿勢も希薄であった」と記者会見で語った。


不適切な行為とは以下のことである。


 パリバの働きかけによって、アーバンコーポが、08年6月26日にCB(転換社債型新株予約権付社債)300億円を発行して、パリバに引き受けてもらう約束をした。その300億円で短期借入金などの債務返済すると、アーバンコーポは発表していた。しかし、実際には、この300億円は、返済に使われるどころか、パリバがCBを引き受け300億円を支払った08年7月11日、アーバンコーポはすぐに300億円をパリバに払い戻した。アーバンコープ側には一文も入らなかったのである。払い戻した事実をアーバンコーポは公表しなかった。これは関係者を欺く行為であった。少なくともパリバによる資金調達でアーバンコーポが一息ついたと関係者は判断したはずだからである。

 実際の取引は、パリバが得たCBを株式に転換し、それを市場で売ってその売却代金を分割して段階的にアーバンコープに支払うというものであった。アーバンコープの300億円支払いとパリバの株式売却代金の段階的支払いというスワップが組まれたものであるが、このスワップには、アーバンコーポ側にはなんの益もない。パリバは、300億円が支払われた段階でアーバンコーポ株を空売りしていたのである。300億円をパリバはすでに手にしているのであるから、アーバンコーポ株が下がっても、パリバの懐は痛まない上に、株価が下がれば、空売りした分だけ儲けが出る。結局、パリバはアーバンコーポに約91億円を払っただけである。単純計算で、パリバは300億円から91億円を差し引いた219億円の利益と、空売りによる利益(推定12億円)もそれに加わった。そして、アーバンコーポは破綻した。破綻したときに、アーバンコーポはこの裏取引の存在を明らかにした(『日本経済新聞』2008年11月12日付)。

 アーバンの増資を巡っては、破綻直後から「不適切」との指摘が相次ぎ、金融庁が調査に入り、アーバンには臨時報告書で虚偽記載があったとして金融商品取引法違反で課徴金の納付を命令した(http://www.asahi.com/business/update/1112/TKY200811110338.html)。

 民事再生法の適用を申請したアーバンコーポの株主が、適用申請時に初めて開示された事項に関して金商法違反であるとして、役員に対して損害賠償請求を提起した。問題視された事項というのは、スワップ契約によって、発行額よりはるかに低い金額しか支払われなかったということである。これを金商法違反として問題視して、役員に対して損害賠償請求訴訟が提起されたのである。

 金商法違反というのは、年度途中のことなので、有価証券報告書ではなく、臨時報告書や半期報告書などの虚偽記載ということになる(5)。

 同社の株価は、08年8月13日の終値で62円であった。08年8月14日に『4半期報告書』が提出された。その翌日から、同社株は急激に下落し、上場廃止直前の8月17日には、1円でも取引が成立しなかった。

 東京証券取引所は、08年9月12日付で、同社が08年6月26日付でおこなった「2010年満期転換社債新株予約付社債の発行(第三者割当)のお知らせ」が不適正開示であるとの判断を示した。

 また、金融庁は、08年10月10日付で、上記臨時報告書に関して、金商法上の虚偽記載に当たると認定し、1081万円の課徴金納付命令を下した。

 しかし、この課徴金支払いによって、同社は、1定の制裁を受けたものの、同社の虚偽記載によって損害を被った一般投資家の被害補填をおこなっていない。

 臨時報告書等の虚偽記載による投資家の被害は、いわゆる自己責任論の範囲外であり、「法はその補填を予定している」として、金商法等に基づく損害賠償による被害者救済を図るべく、「アーバンコーポレイション株主被害弁護団」が結成され、関係者らの民事責任が追及されることになった(08年11月7日)。

 提訴は、東京地方裁判所民事第4部に出された(事件番号、平成20年(ワ)第32110号)。

 原告は、金商法21条2第1項に該当する一般投資家である。「同社株式を、流通市場において、臨時報告書等に虚偽記載がなされた08年6月26日以降である08年6月27日から、同報告書の訂正がなされた同年8月13日までの期間に取得し、同月14日以降に同社株式を処分し、もしくは、同日以降も同社株式を保有する者を原告対象者とした」と説明されている(「アーバンコーポレイション株式被害事件提訴のご報告」08年11月7日)。原告の人数は250名。総請求金額7億7792万円3740円。

 被告は、金商法24条5第5項、同法22条、同法21条に基づき、臨時報告書等への虚偽記載がなされた08年6月26日当時、アーバンコーポレーションの役員(取締役、監査役)の地位にあった者計14名。「被告の中には、元検事総長とか、弁護士であるとか、公認会計士であるとか、金融取引の知識経験が多くあると考えられる経歴の者が相当数おり、きちんと責任をとらせることが必要である」(同報告)。


 おわりに


 インペリアム・コンソリデーテッド・グループ(ICG)の創始者で、前会長のリンカーン・ジュリアン・フレーザー(Lincoln Julian Fraser)が、英国重要詐欺局(SFO)によって逮捕されたのは、2004年2月3日であった。彼は、自宅の強制捜査の後、居合わせた同社の幹部数名とともに逮捕された。SFOは、すでに破産していた同社の管財人、マザーズ(Mazars)の告発を受けて、リンカーンシャー警察(the Lincolnshire Police)と合同で内偵を重ね、投資家を騙していたたとの確証を得、1998年1月1日~2002年6月30日の期間に投資家を欺いたとして告訴に踏み切った。ICGは、2002年に破綻し、負債総額200万ポンドで、資産はほとんど残されていなかった。

 ICGの2人の創設者、リンカーン・フレーザーとジェアード・ブレントリー・ブルック(Jared Bentley Brook)の年収は、150万ポンドを超していた。フレーザーの弟のニコラス・グラント・フレーザー(Nicholas Grant Fraser)も、60万ポンドの年収を得ていた。しかし、彼らは、英国貿易産業省(the Department of Trade & Industry)の査察を受け、2001年、同社の経営から身を引いていた。しかし、管財人のマザーズは、引退後も、両者が実質的に会社をコントロールし続けていたと主張していた。

 ところが、ICG総帥のニコラス・グラント・フラーザーが、08年10月20日、ブラックファイアーズ・クラウン裁判所(Blackfriars Crown Court)で無罪として放免された。ジェアード・ブレントリー・ブルック、リンカーン・ジュリアン・フレーザーも放免された。裁判は、08年3月31日に開始されていたものである(http://www.sfo.gov.uk/news/prout/pr_578.asp?id=578)。

 裁判の結末は当然である。彼らが無実だからではない。金融犯罪の裁判とは、既存の法の盲点をくぐり抜ける悪知恵で人々を騙す技術に長けた極悪非道の人間を、盲点だらけの既存の法で取り締まろうとする司直との戦いだからである。勝利はつねに悪人側にあった。金融犯罪を取り締まれることのできる、より強力な政策とともに、業界の自主規制が強く望まれるゆえんである。


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