消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(284) オバマ現象の解剖(29) 金融権力

2010-02-25 21:57:50 | 野崎日記(新しい世界秩序)


 おわりに


 ウエブ・サイトで広汎に引用されている、言葉がある。一九一三年の連銀法(Federal Reserve Act of 1913)に調印した直後に時の大統領、ウッドロー・ウィルソン(Woodrow Wilson)大統領が語った内容とされている。この言葉は、ウィルソンのあちこちで語った言葉の寄せ集めであることが最近の研究で明らかになってはいる(Leonard、Andrew, "How the World Works -  The unhappiness of Woodrow Wilson," Friday, Dec. 21, 2007, http://www.salon.com/tech/htww/2007/12/21/woodrow_wilson_federal_reserve/)。

 しかし、真偽のほどはともかく、FRB法に署名した当の大統領が、この法に反対であったということが語り続かれているところに、米国の中央銀行、FRBへの根強い反感があることが見てとれる。

 「私はもっとも不幸な男だ。・・・私は、知らず知らずのうちに、わが母国を没落させてしまった。偉大な工業国民が、信用制度に従属させられている。我が国の信用制度は独占的なものになってしまっている。そのために、国民の成長、活動が、少数者の手に握られている。我々は、この文明化された世界のなかで、もっとも悪しく支配され、もっとも完璧に監督され、命令されている政府の一つを持つようになってしまった。その政府は、もはや自由な意見が戦わされる政府ではなくなった。もはや、信念によって動かせる政府ではなくなった。多数決で決める政府ではなくなった。政府は、支配する少数のグループの意見や脅迫に従うものになってしまった。・・・私は、政治の世界に入って以来、人々が私的に私に誠実に語ってくれる言葉に耳を傾けてきた。米国の商業界や製造業界の最高の位置に立つ人たちが、ある人たちを恐れ、あることを恐れている。彼らは知っている。あるところに、よく組織化され、巧妙にして油断のならない、相互に結びつき、完璧にして浸透力の強い権力があることを。したがって、彼らはこの権力を批判するときには、ひそひそと語らねばならないのである」。

 この言葉は、合成されたものである。しかし、少なくとも前半の言葉は、一九一一年の大統領選での演説を集めてた一九一三年に刊行された著作に見出される(Wilson[2008], p. 185)。

 「偉大な工業国民が信用制度によって支配されている。我々の信用制度は、私的に独占化させられてしまっている。それゆえ、国民の成長は、そして、我々の活動は、少数の人たちの手に握られている。この少数者たちは、たとえその行動が正直で、公衆の利益に資することを意図しているとしても、彼らのカネが投資されている大きな企画に心を奪われ、まさにその限界性のゆえに、どうしても、真の経済的自由を冷やし、妨害し、破壊してしまうのである」。

 後半部分は、同じ著作の別のページ(p. 201)にある。

 FRBへの疑念が米国では強い。事実上の中央銀行でありながら、それが政府組織ではなく、少数の巨大民間銀行によって所有されている民間組織であるという点に疑念の核心がある。FRBはけっして独立した存在ではなく、大きな影響力をもつ金融界の大御所によってコントロールされているのがFRBであるという思いから、米国の金融権力批判者の攻撃対象になっているのがFRBである。