消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(270) オバマ現象の解剖(15) ハミルトン・プロジェクト(1)

2010-02-04 23:56:09 | 野崎日記(新しい世界秩序)


 第二章 ハミルトン・プロジェクトと大きな政府


 はじめに


 オバマ政権の経済政策は、大きな政府路線に属する。一九八〇年代の共和党のロナルド・レーガン(Ronald Wilson Reagan、一九一一~二〇〇四年)政権以来、米国の経済政策は、小さな政府路線を維持してきたが、民主党のバラク・オバマ(Barack Hussein Obama, Jr)政権による大きな政府路線は、約三〇年ぶりの方向転換になる。安井明彦の指摘によれば、オバマ陣営の認識では、レーガン時代は、大衆が小さな政府を望んでいたが、いまや大衆はそうした路線に批判的になり、大きな政府を望むようになった(安井[二〇〇八])。

 二〇〇九年一〇月時点での米国の失業率は、一〇・二%であった。この水準は、一九八三年四月以来、二六年半ぶりの高水準である。非農業部門の失業者数は、一五七〇万人。景気後退が始まった〇七年一二月から累計すると、七三〇万人の増加となった(http://www.cnn.co.jp/business/CNN200911070006.html)。

 こうした状況を受けて、米国では、巨額の財政出動やむなしとの空気が醸成されている。ポール・クルーグマン(Paul Krugman)などもそのひとりである。『朝日新聞』二〇〇八年一一月一七日月朝刊の「あしたを考える」は、ポール・クルーグマンの同月一四日のインタビュー記事を掲載した。記事の見出しは「大不況克服へ巨額財政出動せよ・債務増を心配する時でない」であった。

 こうした大きな政府容認論の流れは、すでに二〇〇六年四月に米国民主党系のシンクタンク、ブルッキングズ研究所(Brookings Institute)で作成されたハミルトン・プロジェクト(Hamilton Project)で打ち出されていたものである。それは、ロバート・ルービン(Robert Rubin)によって主宰されているものであるが、「まだ見えぬ市場」(Missing Market)というキーワードの下、政府が主導して新しい市場(排出権取引、医療保険のバウチャー制、教育のバウチャー制、等々)を創出すべきであるとの考え方が、プロジェクトの重要な柱となっていた。

 このプロジェクトの柿落とし(1)で最初に演説を任されたのが、当時、上院議員(U.S. Senators)であったバラク・オバマであった。おそらく、すでに金融危機の到来を予測していたルービンたち、ウォール街の金融関係者が、大きな政府による金融機関救済の布石を打ったものと思われる。