消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(272) オバマ現象の解剖(17) ハミルトン・プロジェクト(3)

2010-02-06 07:06:31 | 野崎日記(新しい世界秩序)


 二 ハミルトン・プロジェクト発表式におけるオバマの演説


 鶏が先か?卵が先か?という次元のものになってしまうが、ロバート・ルービンが提唱したブルッキングズ研究所のハミルトン・プロジェクトのテーマとオバマの一連の演説は、見事に重なっている。二〇〇四年のオバマ演説に刺激されて、ルービンがこのプロジェクトを作成したのか、プロジェクトのテーマにオバマ演説がぴったりであったからなのか、真相はいまのことろ不明である。いずれにせよ、上院議員一期目のオバマが、〇六年四月五日、民主党系シンクタンク(Think Tank)のブルッキングズ研究所でハミルトン・プロジェクト構想が発表されるセレモニーにおいて、先頭を切って招待演説をおこなったのである。この時点で、ウォール街のルービン陣営が、オバマを時期大統領候補者に押し上げようとの決意を固めていたと推測しても、それほど間違ってはいないだろう。

 ハミルトン・プロジェクトの最初の大会は、「機会、繁栄、成長についての米国の約束を回復する」(Restoring America's Promise of Opprtunity, Prosperity and Growth)というテーマであった。ハリー・トルーマンが言及し、二〇〇四年のオバマ演説で強調された建国の理念が、スローガンとして掲げられたのである。ハミルトン・プロジェクトというのはアレキサンダー・ハミルトン(Alexander Hamilton)(6)にちなんで付けられた名前である。

 最初に挨拶をしたのは、ルービンではなく、オバマ上院議員であった。オバマが演説の中で謝意を表明した人々は、のちの大統領選で協力することになる。挙げられた名前は、ロバート・ルービン(ハミルトン・プロジェクト議長、当時、シティグループ会長)、ロジャー・アルトマン(Roger C. Altman、当時、エバーコア・パートナーズ、Evercore Partners会長)、ピーター・オーザック(Peter R. Orszag、ハミルトン・プロジェクト理事)、ロバート・ゴードン(Robert Gordon、ハミルトン・プロジェクト研究員、マクロ・エコノミスト)、オースタン・グールズビー(Austan Goolsbee、同じく研究員でオバマの経済顧問として活躍)、ジョナサン・グルーバー(Jonathan Gruber、MIT教授、医療保険改革でオバマを支えている)、ジム・ウォリス(Jim Wallis、オバマの精神的指導者、福音教会牧師)であった。

 演説において、オバマは、米国には二一世紀に向けた改革プログラミングがないと断定した。自分も属する左派グループは、一九三八年に制定され、週四〇労働時間を上限とするとしたFLSA(公正労働基準法=Fair Labor Standards Act)のようなものにいまだにこだわり、それを超える方針を出すことに失敗している。他方で、右派グループは、減税一本槍である。どちらも、現代における国家の新しい役割について突っ込んだ議論をしていない。

 必要なことは、新しい道を見つけることである。それは、人的投資であり、医療改善、教育改善であり、増大する最貧層に仕事を与えることである。少なくとも、これら人々に向けての二二〇万人の新規雇用の創出が必要である。

 オバマは、自由貿易神話にも懐疑の念を表明した。これまで、自由貿易の利益のみに視点が合わされてきた。グローバリズムで取り残された人たちに対しても、パイさえ大きくしていけば、彼らの再教育費用もでてくるとの前提で話されてきた。しかし、本当にそうだろうか。現実に、私(オバマ)の地元もイリノイ州のデカトゥール(Decatur)やゲールズバーグ(Galesburg)では多くの人が職を失っている。医療手当も受けていない。退職年金もない。いまや親の代よりも子供の代の方が貧しくなる可能性が現実のものになってきた。こんなことは歴史上始めてである。

  このまま事態を放置すれば、米国には内向き感情(nativist sentoment)が蔓延する。保護主義と反移民感情が芽生えている。私たちの子供のために、私たちはこの流れを変えなければならないhttp://www.brookings.edu/comm/events/20060405obama.pdf)。

 見られるように、二〇〇六年四月のハミルトン・プロジェクトを祝するオバマの演説は、二〇〇四年の演説そのもの再現であった。最貧層に視線を当て、教育と医療などの充実で、彼らを貧困から脱出させる。それらが、政府のはたすべき義務であると断言したのである。