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独、米(英)、日の各国の戦時IFF開発動向について

2022年02月01日 13時24分20秒 | 03陸海軍電探開発史

独、米(英)、日の各国の戦時IFF開発動向について

レーダーを開発したら、その目標物が敵なのか友軍などかを識別する必要が生じる。
このため、日本を除く各国列強はレーダー開発とセットでIFF(敵味方識別装置  identification friend or foe)も同時開発が行われている。
日本では、レーダー開発には熱心であったが、IFFに関しては陸海軍とも必要性の認識が低かったようだ。
勿論技術陣のほうにも、技術的な未熟さによる確実な動作が補償されなかったことも大きな要因と考えられる。
しかしながら、日本も劣勢になった昭和19年度以降については、IFFに関しては陸軍が主管で開発する方針となり、陸軍ではGCI(Ground-controlled intercept 地上要撃管制)の観点から開発を行っている。
このため、陸軍のIFFには符合化されていない単純なトランスポンダーの機能に限定されている。
参考に昭和20年の陸軍のレーダー関係の生産目標を掲載する。

 
海軍も陸軍との取り決めにも拘わらず独自に開発したが、防戦一方になり必要性が大巾に減退した。

IFFの開発については、機上と地上設備間で問合せするための符合(コード)とその符合の暗号化とその復号化を無線通信技術と当時のアナログ技術及び少ない真空管素子を使うことなどの制約の中で如何に実現できるかというのが命題であった。
当時の技術では、暗号化/復号化については、周波数分割(独逸では、123Mhzから128Mhzの5Mhzの帯域を200Hz(5ms)の掃引速度で1ビットのコードを乗せる)が採用されている。
一方、符合化については、独、米(英)では機械式カムを組み合わせたメカトロニクス技術で符合の生成を行っている。
日本海軍では、メカトロニクス技術が未熟であったため、不完全ではあるが全電子式を採用している。

独、米(英)、日の各国の戦時IFF開発動向について
ドイツ 

GERMAN WWII FuG 25a Erstling 原本https://www.cdvandt.org/FuG25a-Erstling-Hans-Jucker.pdf

GERMAN WWII FuG 25a Erstling 和訳版https://drive.google.com/file/d/1nJk84hxCk0-Q0qP_5JtkU_qx-uQmwQI3/view?usp=sharing

米(英)
IFFセット
IFFセットは、戦闘空域で使うための識別装置である。
この操作は簡単である。
必要な操作はトグルスイッチでオン-オフすることだけであり、あとは自動的に作動する。
IFFはパイロットが敵地において機体を放棄しなくてはならないときに、その重要な部分を破壊するための自爆装置を内蔵している。
自爆装置は、コクピットの右側にある箱に有る二つのスイッチを押すことで作動する。二つのボタンは同時に押さなくてはいけない。
IFFはまた、墜落時においても自爆装置を作動させるための衝撃スイッチを持っている。
これにより、パイロットが脱出の必要な状況において二つのボタンを押す余裕の無 いときでも、装置は破壊されるようになっている。
自爆装置は装置の内部を破壊するが、パイロットや機体には無害である。
なお、米軍のIFFに関する技術情報は全く公表されておらず、詳しい機能については不明である。

 
IFF MarkⅢhttps://minouta17.hatenablog.com/entry/2020/02/02/163339

 

日本
陸軍 タチ13とタキ15

http://minouta17.livedoor.blog/archives/18022261.html

本機タチ13とタキ15の運用事例については、下記のとおりである。
陸海軍共同迎撃システムの誘導実験の考察の再検証https://minouta17.hatenablog.com/entry/2020/06/05/193841

 


海軍 5試味方識別装置1型 M-13 IFF
http://minouta17.livedoor.blog/archives/18022303.html

E-12  JAPANESE EXPERIMENTAL RADARの第二海軍工廠でのIFFに関する研究の項からの抜粋
IFF M-13型、M-13型改:海軍で最も多く使用されている13型、11-K型警戒レーダーと連携し、敵と味方を識別する特殊信号を発信する機上装置の研究が完了した。 
その性能は十分とは言えないが、この装置は生産され、運用が開始された。
日本無線史」10巻 戦闘機誘導装置からの抜粋
6号2型(浜62号)
味方機測定としては波長二米の電波を用いた六二号電波探信儀(浜六二、一号電波探信儀三型を等感度方式に改造したもの)に依って呼び掛け、機上の味方識別装置からの応答電波に依りその位置を知り、高度は機上からの通報に依り、これらの資料から敵味方の会合点を求める方式であった。

この2点の資料から、友軍機誘導レーダー専用機とし、IFF M-13型、M-13型改に対向した地上局用専用の6号電波探信儀2型(62号、浜六二)を開発するとともに、150Mhz帯の既設の13型、11-K型警戒レーダーにも対応させる狙いがあったようだ。
しかしながら、6号電波探信儀2型(62号、浜六二)が機上用のIFF のM-13とのインターフェースを持って居らず、方位角の等感度方式と測定の長距離化はしているが射撃管制レーダーに分類されるレーダーに過ぎない。
勿論、既設の警戒レーダーの13型、11-K型の機能にもインターフェースはない。
これから、類推できることは、M-13の本来の機能である周波数分割(145、150、155Mhz)による暗号化処理を使用せずに150Mhzのみで運用したのではないか。
この運用であれば、150Mhz帯を使用しているすべてのレーダーで使用することができる。
M-13型改については、資料はないが、恐らく暗号化の処理を省略した陸軍のタキ15と同様な簡易版としたのだろう。


以前に下記のIFF関連のブログをアップしたが、今回改めて再検証するこことした。
捷號作戦戦訓抜粋(電波兵器)(昭和19年11月11日)に関する考察http://minouta17.livedoor.blog/archives/20559571.html

戦史に掲載されたIFF(敵味方識別装置)に関する資料を下記に掲載する。
機密兵器の全貌 昭和51年6月 元海軍技術大佐 伊藤庸二からの抜粋
第三節 電波応用兵器 P152
一. 味方識別装置
昭和16年の夏伊太利海軍からの情報で、英国では味方識別装置とも称す可きものが使用されて居ることが判った。
一部省略
ところが、電探の出現によって、敵味方識別の方法に急に曙光がさした。電探との併用が今迄色々提案されたものの内の最も積極的な解法であるらしく見えたのである。海軍技術研究所は極めて簡単であったが伊太利情報を基として電探と組合せ、16年末には既に之が具体的計画を進めたが、或る目標が電探の電波に曝された場合にそれに応えて全く同じ波長の電波を送り返す技術が未解決であった等、色々の問題が残されたままに17年5月の伊勢、日向の電探実験に望んだ。そして此の実験の時にようやく技術上の一案が提起され、直ちに之を試作した。併し関係者が審議した結果は
(a)応答率が100%でないから応答しない場合は味方を攻撃してしまう。
(b)各電探に一様に応えることが困難である。
との理由で、兵器採用は見合せられた。これは英国では夙(しゅ)くこれを使って居るとの情報を耳にしたあとの判断である。
一部省略
味方識別装置は自己を曝露する恐れが多い。軽々には用いてならないと云う自重論である。
一部省略
處が19年秋の情報は敵が此の味方識別装置を盛んに使用して居ることを続々報じたのである。かくなると又問題がせわしくなる。研究再開が命じられた。そして追いかけ50基の兵器生産が緊急命令として発令されたのである。如何にも泥縄式である。此の場合斯(か)くなるには研究者側にも相当の責任があるにはあった。併しその本質は用兵者に技術の見透しがあまりに欠けて居た為である。尚日本人の考え方の特徴である他のものを兼ねさせる。所謂一石二鳥を善なりとする考えが此の場合に基調となって居たことも見逃せない。此の処置は折柄熾烈に展開することになっていた。比島方面の戦闘に単座戦闘機を偵察に用いる為、味方識別機をして電信機をも兼用せしめようとするものであった。
本来充分な準備なく、直ちに量産に移ることは技術者の決してとる可き道ではない。併し切羽つまった用兵上の要求は、遂にそれを邁進せざるを得なくした。幸に実験も順調に進み、翌20年1月には地上試験を行い、予期の性能が得られたので、更に次の実験にうつったが、一部要求性能をみたし得ず、而も比島方面の戦況も一変して、渡洋爆撃の機会も少なくなり、遂に試用の形で終戦に至ったのである。
味方識別装置は用兵者と技術者の物の考え方に不一致を来し、実現す可くして実現されなかった最も顕著な例の一つである。初めは用兵者が非常に厳格な条件を固持してゆずらず、戦力化に協力せず、必要に迫られて、用兵者が一歩譲った時には戦局が緊迫化して兵器製作が後手、後手となり、何等戦力に寄与し得なかったものである。
味方識別装置は戦術上の要求から陸海軍共通のものを是非用いたかったものであるが、両者は遂に一致し得なかった。それは電探発達の経緯が夫々異なり、その上に立つ味方識別装置は自ら違わざるを得ない為であつたのである。此の事については陸海軍電波技術委員会は極めて慎重に協議した。そして、何れ第二段の階程に於て一致させようと決めたのであった。併し運命は第一段をも完了させることなく、すべてを終わらせたのである。之程の利器に技術研究陣としては真の斧銊を加えることもせず、用兵者としては先見を失い。遂に敗退し去ったのである。かっての国防責任者の動きとして実にも慚愧の極みである。


孤独な戦闘機 電探早くの声にこたえて 連合艦隊司令部付 海軍大尉 立石行男からの抜粋 
夜間でも射撃用電探によって射撃しようとする米国では、この味方識別を重視したらしいのであって、編隊には必ず味方識別の電探を発射する装置のある飛行機がはいっておった。米国の見張電探では味方機が近づくと、その反射波と同時に味方識別電波が重なってブラウン管に出る来るので、ハッキリと味方だと判る訳である。
ところがこの味方識別の電波が、日本にとっては却って好都合なところとなった。というのは、ソロモン方面の作戦以来、米軍飛行機の来襲のあるときは、大抵、日本の見張用電探が極めてハッキリと、数秒間に1回位の割で、点滅して表れるからである。はじめは何だか判らなかったが、段々米機の味方識別電波だと判ってて来ると、この電波が出ただけで空襲警報を出すようになった。距離もかなり遠くから現れ、150粁とか200粁位のところから現れていたようである。B-24、P40、PBY等の飛行機のときは極めて鮮明に出たが、ボーイングB-17は余りはっきりと出なかった。何れにしても面白い現象だったと思っている。

 

上記海軍大尉立石行男氏の記録を裏付ける資料として下記の捷號作戦戦訓抜粋(電波兵器)を掲載する。
捷號作戦戦訓抜粋(電波兵器)(昭和19年11月11日)http://minouta17.livedoor.blog/archives/18022336.html

上記の戦訓による「(ニ)敵飛行機ハ味方識別ヲ使用セルモノノ如ク13號電探ニ現レタル反射波ハ絶エズ点滅ヲ繰返シツツ接近セリ 但し21號ニハ此ノ種ノ現象ヲ認メズ(若月)」を検証する。
まず、米軍航空機に搭載されたIFF Mk IIIの諸元を以下に示す。 
IFF Mk III 諸元
Frequency range 157-187 MHz, I Band
Type of Wave Pulse-modulated
Frequency range 157 to 187 Mc/s continuously swept in 2.5 seconds.
Flyback time less than 0.5 second (HT is switched of during this time)
このことから、ドイツと同様にIFF Mk IIIは157から187Mhzにわたった連続波を使用していることが分かる。
一方、日本側のレーダーについては、13号電探では敵のIFF電波を受信できるが、21号電探では受信できなかったとの指摘である。
13号電探(正式呼称には1号電場探信儀3型)
http://minouta17.livedoor.blog/archives/18022291.html
使用周波数は、150Mhz帯である。
周波数使用範囲幅は、下記の写真のとおり、150Mhz±5Mhzであることから、145Mhzから155Mhzで運用されていることがわかる。


21号電探(正式呼称には2号電場探信儀1型)
http://minouta17.livedoor.blog/archives/18022292.html
使用周波数は、200Mhz帯である。

以上の日本側2つのレーダーの使用周波数と米軍航空機が使用しているIFF Mk IIIは157から187Mhzでは、使用範囲が異なり日本側のレーダーでは受信できないことになる。
戦訓の別の項に「24日夜間敵水上部隊ニ近接セル際200,150,120Mcノ電波ヲ感5ニテ探知セリ 200,150Mcハ音色清澄(ピーピー)150Mcハ「ヂ―」音何レモ味方ノモノニ比シ勢力強ク前者ハ旋回時隔探信、後者ハ常時探信ヲ実施シアリキ時隔探信電波輻射時間ハ概ネ30秒以上3乃至5分程度ナリ(日向)」とあるように、日本側も戦闘中に各艦では電波探知機(E-27受信機;本機は80から400MHzのVHF波を5バンドに分け受信する)を使用して電波情報収集として敵の電波の使用周波数を測定していることがわかる。
したがって、米軍航空機が使用しているIFF Mk IIIが157から187Mhzで電波を発信しているとも認識していたはずである。
ここからは推測となるが、13号電探を使用しての前提となるが、本来レーダーは送信波と受信波は同一でないと運用できないが、電波探知機での受信周波数情報をもとに、本来のレーダー運用ではなく、レーダーの受信機だけ使用して受信調整して157Mhz以上の受信を行ったのではないのだろうか。
写真のダイヤル目盛を見ると、アッパー側への受信のマージンは高そうである。
もう一つの推論は、大艦隊でのレーダー運用では各艦の電波使用周波数を分散することが望ましい。
このため、13号電探の使用周波数の割当てにおいてたまたま157Mhzを割り当てられた艦船で受信ができた可能性があるが、設計仕様外の軍の運用には少し無理があるように思われる。
しかも、レーダーの電波運用で使用周波数の割り当てをしたような記録をみたことはない。



参考文献
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
GERMAN WWII FuG 25a Erstling target identification transponder
https://www.cdvandt.org/FuG25a-Erstling-Hans-Jucker.pdf
機密兵器の全貌 昭和51年6月 元海軍技術大佐 伊藤庸二
孤独な戦闘機 電探早くの声にこたえて 連合艦隊司令部付 海軍大尉 立石行男
JACAR(アジア歴史資料センター)Ref. C08030036800、昭和19年10月20日~昭和19年10月28日 捷号作戦戦闘詳報(比島方面決戦)(3)
「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C13120839800、電波器材(防衛省防衛研究所)」
New England Wireless & Steam Museum  https://newsm.org/


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