2号電波探信儀2 型 改4のブロックダイヤグラムによる動作概念の解説について
米軍へ提出されたブロックダイヤグラムのタイトルには、TYPE22とある。
日本側での制式呼称は、2号電波探信儀2 型 改2、改3、改4、改5(日立製造分)の4種があるが、本機のブロックダイヤグラムは2号電波探信儀2 型 改4である。
開発及び製造会社は日本無線株式会社である。
ブロックダイヤグラムでは、次の12つのブロックの機能で構成されている。
Antenna Unit Receiver Range Unit Indicator for waring synchronizer Transmitter modulator
Control box receiving parts; constant voltage rectifier constant voltage apparatus indicating parts; rectifier control box Transmitter parts
空中線(Antenna Unit)
電磁ホーン(口径400mm、アンテナ利得13db)、円形導波管(口径75mm)
受信機(Receiver Unit)
受信機の調整は前面にある「導波管整合」と「波長整合」と云う2つのつまみと高周波増幅調整器によって行われる。
受信機: スーパーヘテロダイン方式、第1検波;鉱石検波器、局部発振M-60、中間周波増幅5段(UZ-6302 x5)中間周波数14.5Mhz帯域幅2Mhz、第2検波(UY-76)、低周波増幅2段(UZ-6302 x2)
使用真空管の事例を以下に示す。
M-60マグネトロン、UZ-6302、UY-76
受信機の内部のマグネトロン実装事例(このモデルは再生検波方式と思われる。
なお、受信用マグネトロンM60-Mと読める。)
受信機の配線図
回路の特徴:鉱石検波器から取り出した直後に「Quarz Retarder (水晶棒(リターダ))」とあるが、これが所謂ドイツのウルツブルグで使用されていた「レーボックス」という遅延回路で、中間周波増幅部の入力側に挿入して自己送信波を受信し、水晶棒の長さを適当に選べば例えば5km毎に二次波、三次波等々を表示し得、目盛の役も果たし測距上も有効なことが判り非常に重宝且つ不可欠のものになっていった。このように自己送信波を受信し、ある距離をブラウン管上に映し出して良否を確かめる「自己鑑査」の機能は大変有効であった。
受信機で使用しているUZ-6302は、戦前にテレビ受像機の映像増幅菅として開発された広帯域増幅菅であることから、同期発振器や指示機などで使用している真空管が新型管のH管に変更となっても、終戦まで日本無線では受信機にこのUZ-6302が使用されつづけられた。
受信機の問題点とその解決方法について
「日本海軍エレクトロニクス秘史 田丸直吉」氏からの抜粋
22号電探の不安定の原因をつきつめて行くと、キーポイントは受信機の不安定の問題であり、更に的をしぼれば受信機の第一検波が磁電管M-60を使ったオートダイン方式であることであった。このオートダイン方式では磁電管M-60を局部発振器として入力電波周波数f0、即ち送信電波周波数と中間周波数f1との差の周波数f0±f1の発信を行わせる役目と、その周波数に於て非直線性を具えた第一検波器としての役目とを兼ね具えなければならないようになっている。そしてこの調整は受信機の前面にある「導波管整合」と「波長整合」と云う2つのつまみによって行われるようになっていたので上記の2つの要求に合致したポイントを探し出すことは天才的な手腕を必要とし、又エコーが出ても電圧の変動、温度変化等により忽ち(たちまち)消えて再調整を要すると云うものであった。云うなれば二兎を追う仕組みになっていた。
そこで「一目的一装置の原則」からM-60にはf0±f1を安定的に発振せしめる局部発振器の役目を与え、検波は鉱石検波器に委ねるべきと云う当然の結果に到達する。「鉱石検波器は焼けるのではないか」との論もあったが22号に於ては当時送受信別個のラッパを使っていたのでこの心配はなかった。又鉱石検波器では変換利得が落ちると云う意見もあったが、オートダイン方式の受信機より得られるエコーを見ているとそれは非常に不安定であり20~40デシベル位の変化は常に起こって居り、一方鉱石検波器は熱雑音が少ないので中間周波増幅部で十分の利得が得られることが判った。又鉱石検波器を兵器に採りいれることの反論も予想されたが、その時点では既に電波探知機に七欧製のものが採用されていたので問題はなかった。
このように考える時英国のロッテルダム・レーダーはマグネトロンを局部発振器に使い鉱石検波を行っているという情報のあったことが思い出された。
敵も同じことを考えていたのである。
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これより以前から「菊池正士技師の下で10センチ・スーパーのバラック・セットが出来ている」と聞いていたが何故かこれを採用する気運が電波研究部にはなかった。これは(1)鉱石検波器は兵器としては不安定、(2)熱に弱いと云うことであって、よく調べて見ると実験した結果ではなく単なる憶測であることが解った。一種の鉱石アレルギーである。
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M-60の局部発振電波はオートダインの場合と同様に横方向から導波管の中に入れたがその先端はダブレットとした。このようにして出来たスーパー受信機は「導波管整合」と「波長整合」の両つまみの調整共にブロードで安定していた。そしてこの調整で送信菅L,M,Nの全波長をカバーすることが出来た。
※M-60の発振は現用のモードより一段電圧及び界磁の高いところにあるモードの方が安定らしいと云われていたが之を確認し局部発振管として安定な発振を行うポイントを実験的につかむ。
※送信マグネトロンの出来によって波長が散布していたので、L、M、Nの3種類に仕分けられていた。
送信マグネトロンM-312の” L、M、N”のマーク事例
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かくして日本海軍のマイクロ波レーダーは本格的な研究を始めて丸3年の歳月を経て漸く完成を見たのである。
電波研究部所の名和中将は伊藤大佐に対して「伊藤君!これで君は銃殺をまぬがれたな!」
それは極めて強い語気であったと云う。
同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び見張用指示機(Indicator for waring)について
A short survey of japanese radar Volume 3に22号の各種指示機の操作方法が具体的に記載される文書があった。
また、Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japanにこれに関連した技術資料があったので、この2点の資料をもとに、この関連機能(同期発振機、測距儀、見張用指示機)に関する技術的な検討を行う。
A short survey of japanese radar Volume 3からの抜粋
ディスプレイは2本のA型ブラウン管を使用する。「見張用指示機」と呼ばれる1本のブラウン管は、60kmまでのすべてのターゲットエコーを表示し、5kmごとに距離目盛が表示される。測距調整用クランクを回すと、3マイクロ秒幅の距離パルスが移動する。2番目のスコープ(測距儀担当オペレーター用)は、測距調整用クランクで選択された距離の約1000mを拡大表示する。スコープの前には拡大鏡があり、5インチブラウン管に相当する大きさになっている。目標物の輝線の先端がスコープに刻まれた垂直線とちょうど重なるようにセットすると、真の測距距離がダイアルで読み取れる。
22号セットの詳細な回路図は付録IIに含まれている。
22号セットのいく分か簡略化されたバージョンである改3は、潜水艦の艦橋内に設置されている。下の写真の1つに示されているように、並べて取り付けられた2つのホーンが使用されている。表示は75 mmの単一のスコープでA型のものである。潜水艦からの測定距離は戦艦に対して約10 kmである。
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946からの抜粋
音叉と、発振器と緩衝器として使用される2つのRH-2真空管は、2.5Khzの周波数の正弦波を同期回路、掃引回路、および測距装置の位相調整回路に供給するためのものでした。
同期回路は変調器を制御するためのマイナス120ボルトのパルスを正弦波から生成した。
掃引回路は、指示機用掃引電圧と30Khzの電子距離目盛を生成した。
音叉型発振器の正弦波出力も位相調整回路で矩形波に変換し、ブラウン管の輝点パルスとして使用された。
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan の資料には、2号電波探信儀2型改4の同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び索敵用(見張用)指示機(Indicator for waring)に関する回路図が何故か提供されていないので、2号電波探信儀2型改3(潜水艦用)の同機能部の回路図を参考のため提示する。
なお、改3は潜水艦搭載のため機器をコンパクト化しており指示機と同期発振機は同一機器内に収容されている。
同期発振機(synchronizer)、測距儀(Range Unit)及び索敵用(見張用)指示機(Indicator for waring)を構成する新型の真空管であるH管を参考のため提示する。
同期発振機(synchronizer)
(註)用語解説
Sat.Amp (※ Saturation Amplification → 飽和増幅)増幅菅のバイアスを零バイアスとさせ、中心部分だけが増幅することにより、入力が正弦波であれば、出力は矩形波になるように歪んだ波形をわざと作り出す回路技術のこと。
同期信号用発振部
RH-2(sine wa osc) → RH-2
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japanの資料のとおり、音叉と、発振器と緩衝器として使用される2つのRH-2真空管は、2.5Khzの周波数の正弦波を生成する。この正弦波を同期信号として、同期回路、掃引回路、および測距装置の位相調整回路へ供給する。
日本測定器株式会社製音叉(SB型音叉発振器)の事例
送信同期パルス生成部
RH-2 → RH-2(sat.amp)→ RH-2 → R H-2
回路図がないので2号電波探信儀2型改3(潜水艦用)の回路図を参考とする。
緩衝増幅→飽和増幅(正弦波から矩形波へ変換)→RH-2×2(パラレル増幅)→微分回路によるパルス波生成(資料では-120V生成とある)
掃引波生成部
RH-2 → RH-2(sat.amp)→ RH-2(sat.amp)→ RH-2(sat.amp)→ RH-2(saw teeth gen.)
とあることから、正弦波緩衝増幅→飽和増幅3段→のこぎり波生成(積分回路)で索敵用(見張用)指示機のブラウン管の水平軸に「のこぎり波」を印加する。
目盛発生部
RH-4(Damping OSC) → RH-2→ RH-2→ RH4→Time Scale
Damping OSCとあるのは減衰振動回路のことで、コンデンサーに充電された電荷が火花間隙を通して充電する場合に生じる減衰電気振動を利用するものと無線工学ハンドブックには記載されているが、とはいっても出典事例はなんと大昔の火花発振器である。
これでは動作を説明できませんが、基本的には同期用の2500Hzの正弦波を起電力として減衰振動回路を起こすことで高調波成分が発生する。
この高調波成分の中で30Khz(12逓倍)を同調させて取出す仕組みのようである。
この30Khzは索敵用(見張用)指示機のブラウン管の垂直軸の5km単位の電子マーカー(目盛)として表示するためのものである。
RH-4(Damping OSC)以降のステージは機能が示されてないので正確なことは不明であるが、30Khzの正弦波を飽和増幅して矩形波に変換し、微分回路を通してパルス化したものをプレート検波して正パルスだけ取り出したものが、電子マーカー(目盛)となる。
参考事例 海軍13号の指示器の目盛発生回路(2球の回路構成)
真空管V4の陽極側より変圧器を経て、適当なる衝撃波となりて、7.5kc減衰振動回路の同期し、陽極側にて増幅され変圧器T6にて、微分以て、次の真空管V7にて陽極側より負の衝撃波として取出されブラウン管のY軸に加える。
(註 変圧器T6(パルストランス)はLR直列による微分回路を構成し、V7はプレート検波による電子マーカーを整形する。)
測距装置(測距儀)(Range Unit)
(註)正面右下が位相調整器であるが、回転用クランクハンドルと距離メーターが見える。
本位相調整器には、ゴニオメーターが使用されているようだ。
RH2→Phase Shifter(位相調整器)
同期発振機からの同期信号である正弦波を増幅して、位相調整器にかける回路である。
これは、同期用正弦波が2500Hzであることから波長の1/2の60kmが測定距離にあたるが、位相で考えると180度で60kmということである。
送信機からパルス送信した反射パルスがブラウン管の半分の位置(測定距離30km)にあるとすれば、測距装置のこの位相調整器で位相をずらした形でブラウン管の掃引用の「のこぎり波」を与えるような仕組みであることから、位相調整器の位相が0度の場合、測距装置のブラウン管は索敵用(見張用)指示機と同じ30kmの位置に反射パルスを観測することになる。
今度は、位相調整器の位相を90度にした場合、反射パルスはブラウン管の開始位置0kmと一致する。
このように、位相調整器の位相の変化分を測定距離に換算できる仕組みがあれば、正確な距離を測定することができる。
位相調整器には、ゴニオメーターやCRによるツーロン回路などがある。
位相調整器の拡大機能について
A short survey of japanese radar Volume 3からの抜粋では、【測距調整用クランクで選択された距離の約1000mを拡大表示する。】とあるが、この意味は位相調整器の位相範囲が角度180度で測定距離60kmとなるものが、減速用の歯車機構により角度180度で測定距離1kmに拡大する仕組みがあることを意味する。
したがって360度1回転で測定距離2kmとなるので、位相調整器のクランクを30回ほど回転させれば、測定距離60kmとなるような仕組みと考えればいいのだろう。
このバーニア機構により1度の測定距離は5.56mとなる。
測距装置の読取り精度を仮に±2度とすれば、測定誤差は±11.12mとなる。
ただし、実際の公式資料での22号の測距の測定精度500mとあるので、実際の精度は±9度のようだが、この実際の精度であれば射撃管制レーダーとしての運用は困難だったということのようだ。
この精度不良の原因は、アンテナに電磁ホーンを採用していることに大きな要因があるように思われるが、やはりセンチ波を使用するのであればパラボラアンテナを採用することが原則であろう。
参考資料 22号射撃管制レーダーの性能(実測データ)
※実測データから見る限り、測距装置の精度は合格だが、方位角の精度が悪すぎたのではないだろうか。
以降の回路では、のこぎり波生成部、Return path eliminating signal (リターンパス除去信号)(※本命名の正確な意味は不明であるが、機能面から考えると明らかに選択信号の機能と思われる)、帰線消去信号生成部の3つの機能がある。
のこぎり波生成部
RH-2(sat.amp→RH-2→PH-1
矩形波からのこぎり波を生成するためには、下図のとおり正弦波からRH-2で飽和増幅し矩形波を作り、その出力で微分回路を通し、次段RH-2の出力で積分回路を通し、最後の電力増幅段PH-1で増幅してブラウン管の水平軸に「のこぎり波」を印加する。
同時期に開発された米軍のSCR-270の測距装置のブロクダイヤグラムを示す。
(同期信号→位相調整器→波形整形→のこぎり波整形→ブラウン管の水平軸注入)
Return path eliminating signal生成部(選択信号生成部)
RH-2(sat.amp→RH-2(sat.amp)
正弦波からRH-2で飽和増幅し矩形波を作り、その出力で微分回路を通してパルス波を生成し、次段RH-2でCクラス動作することにより正パルス成分のみにする。
このパルスは位相調整器により位相が変化することから、選択信号としてブラウン管のグリッドに印加すると輝度変調して、該当位相位置で輝点として発光する。
帰線消去信号生成部
RH-2(sat.amp)→RH-2→RH-2(sat.amp)→RH-4→RH-4
22号改3の指示機の回路図の中で帰線消去回路を提示しているが、基本的にはのこぎり波を再作成したものを微分することで帰線消去信号を作り、ブラウン管のグリッド若しくはカソードに印加してのこぎり波の復帰時間分をブラウン管の表示から隠蔽する処理であり、帰線消去のため何故こんな複雑な構成が必要なのかわからない。
参考資料(アマチュアのオシロスコープ技術からの抜粋から帰線消去信号の作り方)
測距装置の操作・画面イメージ
索敵用(見張用)指示機(Indicator for waring)
基本的には単なるオシロスープの機能だけであり、焦点、輝度、上下、左右の基本的なブラウン管の調整機能があるだけである。
受信信号はPH-1の1段増幅を行い、ブラウン管の垂直軸に印加する。
同期発振機で生成された「のこぎり波」は、RH-4の1段増幅でブラウン管の水平軸へ印加するとともに、距離目盛として使用する電子マーカーも水平軸のもう一方の偏向版に印加する。
更に、測距装置で生成された選択信号は、ブラウン管のグリッドに印加し輝度変調することにより、測距装置で位相調整器を動作する変化分を索敵用(見張用)指示器に輝点として表示する。
特に反射波が複数存在する場合、どの目標を測定するか輝点で表示することができる。
索敵用(見張用)指示機の画面イメージ
送信機(Transmitter Unit)
M-312マグネトロンの事例
送信機の回路図
マグネトロンの構造と動作 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
マグネトロンは他の熱電子管と同様、ヒーターにより加熱される陰極(カソード)と、加熱されない陽極(アノード)からなる。
陰極は管球の空胴の中央に配置され、陽極はこの陰極を囲むように配置されるとともに、陰極に対して正の高電圧が印加されている。陰極をヒーターで加熱すると熱電子が放出され、陽極と陰極間の電界により陽極方向へ加速される。このとき、管球の軸方向に永久磁石などで強力な磁場が形成されており、電子はフレミングの法則に従い進行方向と直角な方向に力を受けて曲げられる。
この作用により、電子は陰極と陽極の間にある作用空間と呼ばれる場所で、サイクロイド曲線を描いて振動しながら周回運動を始める。陽極には規則的に形成された複数の空洞(キャビティ、cavity)があり、空洞の開口部をサイクロイド振動している電子が通過すると、空洞の共振周波数で空洞と電子が共振を起こし、マイクロ波が発生する。こうして空洞に発生したマイクロ波を、結合回路を介して出力回路へ効率よく伝播させることで、マグネトロンの外へと導き出し、各種の利用が可能になる。
送信機の送信用マグネトロの実装事例
動作説明
送信部は水冷式マグネトロンM-312を用いており、その出力が導波管でホーンアンテナに導かれる。
変調はマグネトロンのフィラメント回路に直列に接続されたカレントトランスに変調部からの出力を与えることで行われる。マグネトロンの磁石は外部電磁石である。マグネトロンの陽極と電磁石を冷却するために水冷ポンプから冷却水が供給されている。マグネトロンの電源にはアノード側に直流7,000Vが与えられ、カソード側に変調信号として5,500Vの負の変調パルスが重畳される。
マグネトロンM-312の単体性能は以下の通りである。
・フィラメント 10V/19.5A(195Watt)
・フィラメントエミッション 2A
・アノード電圧 11,000V
・磁界 700ガウス(外付け電磁石)
・アンテナ出力 尖頭2KWatt
・許容アノード連続損失 500Watt
・発振波長 9.875±0.5%センチメートル(3037MHz)
下図のように、陰極(カソード)にパルスを印加することにより、マイクロ波の送信パルスを生成することができる。
変調機(modulator)
P-112、P-220、S-182
変調機の回路図
疑問点
2段目の増幅菅P220のG1とG2の接続が逆ではないのか。更にG3の動作が説明できない。
以上の疑問を考えてネット検索していたら、樋口氏の「MY HOMEPAGE」に変調機の修正された回路図が掲載されていたので、紹介します。
動作説明
真空管構成は、P112→P210→S182×2(並列)のとおりである。
同期発振機から-120Vの負の送信同期パルスの入力を基本としている。
ここで重要なのは正パルスと負パルスの関係であるが、受動素子のコイルや能動素子である真空管(グリッドとプレートの関係)では入力に対して出力は180度位相が反転するため、このことを考慮して回路設計しなければならない。
一方、変調機は送信同期パルスが入力した時点のみ動作し、それ以外は待機状態にする必要があるのでこれら整合性を計った回路設計が必要となる。
初段のP112では、負パルスが入力され、出力は正パルスとなる。
次段のP220(V404)の回路設計は少しトリッキーな回路が採用されており、何故このような回路構成にするかの理由は、正パルス入力を正パルス出力させるための苦肉の策に思える。
簡単に説明すると、P220はパルスがない時、G2には-500Vが印加されているためカットオフされて動作はしない。正パルスが入力されるとカットオフから開放されて動作状態(ゲート機能)となりプレート側には負パルスが出力されるが、T401のトランスを介してパルスは位相反転して正パルスとなりG2に供給される。
ただし、入力の正パルスが終了すると、G1には-500Vがかかり、再びカットオフとなる。
なお、G3の明確な動作は不明である。
次段のS182の入力はP220のG2の正パルスから取り出すことになる。
同様にS182のG1には-700Vがかかっており、当然カットオフされて動作は停止状態であるが、正パルスの入力により増幅動作を行うこととなる。
【2号電波探信儀2 型に関するコメント】
・使用周波数は3Ghz(波長10cm)を採用しているが、センチ波レーダーの開発着手については英米と遜色がなかった。
・送信菅及び受信用局部発振部には磁電管(マグネトロン)を使用している。
・パルス繰返し周波数は、2,500Hzを使用していることから、理論的な測定最大距離は60Kmとなる。※((電波の波長÷パルス繰返し周波数)× 1/2 )
・メートル波の見張用レーダーであれば、通常は測的用(見張用)指示機のみ用意するが、センチ波を利用してもメートル波同様に、アンテナの物理的な方位角をそのまま利用することにより方位角用指示機は省略されている。このため、方位角の誤差精度を更に改善することができず、22号を射撃管制レーダーとして使用することは困難であった。
・受信機については、開発初期から超再生検波や再生検波方式が長期間にわたり採用されており動作の不安定な状態が問題視されていたが、昭和19年7月以降スーパーヘテロダイン方式が実用化し、やっとまともなレーダーの安定運用が可能となった。
・シングルスーパーヘテロダインからダブルスーパーヘテロダイン方式などの更なる受信向上の努力が見られないのは残念である。
・送信部の機能については、初期の2号電波探信儀2 型の原型機から殆ど改善が見られず、送信パワーの向上する努力がみられない。特に送信用マグネトロンの出力は米国を比較しても貧弱のままだった。
・アンテナ系については、送信用と受信用に別々のホーンアンテナが採用されたが、昭和19年中期からパラボラアンテナ化、大型の角型ホーンや円形導波管から矩形導波管の採用、送受信共用アンテナへの改善努力が見られたが、何れも搭載時機が間に合わなかったり、搭載すべき艦艇が喪失した以降の時期となり実戦配備には至らなかった。
・今次大戦では日本海軍は大型艦艇から小型の海防艦に至るまで殆どの艦艇に22号と13号を装備したことは特筆に値する。
・最後に、A short survey of japanese radar Volume 1の下記の文面を紹介する。
e.製造されたレーダー。日本無線の工場は注意深く 2 つの部分に分けられており、陸軍用の機器を製造する部門と海軍用の部門があった。一つのセクションで働くエンジニアは他のセクションに入ることは許されていませんでした。また、彼らのエンジニアは、艦船や航空機、地上の位置に設置された機器のテストを製造後に観察することも許されていませんでした。この方針は、会社の関係者から強く批判された。
→ これが軍の実態であり、海軍技術研究所の技術士官といっても所詮官僚組織であり、レーダーの技術的問題点をメーカー技術者と共有することにより問題点を解決するといった考えよりも、陸軍は陸軍のみに、海軍は海軍のみの権益とか縄張りなどの意識が大変強かったということであろう。
このことから、戦後に彼らが如何なる発言してもまともに信じることはできないが、敗戦直後に混沌とした世の中で占領軍に語った内容を取り纏めた「A short survey of japanese radar」のほうが断然に価値が高いものに思われる。
【疑問点】
①.続日本無線史<第一部> 昭和47年2月発行からの抜粋
d日本電気株式会社(住友通信工業株式会社)
Ⅵ生産機種 戦中
海軍関係
M-22号、M-130号、M-213号指示器 電波探信儀用指示器各種
R金物、β金物 電波探信儀用精密測距器
続日本無線史では上記の記載があるが、この中で、日本電気株式会社ではM-22号指示器、R金物、β金物電波探信儀用精密測は、2号電波探信儀2型(22号)のための指示機や測距装置としての生産品目なのだろうか。
22号のブロックダイヤグラムを見ると、東芝や日本電気のものと比較すると指示機の機能に関する記述が極端に少なく、ブラウン管に至っては規格も記載されていない。
このことから、日本無線としては指示機などを外注していたのではないかとの考えに至ったが、真実は如何なるものであったのだろうか。
②2号電波探信儀2 型改5に関する公式資料を未だかって見たことはないのだが、本当に存在するのだろうか。
③索敵用(見張用)指示機に対する帰線消去機能がどこにも存在しない。
2号電波探信儀2型改3(潜水艦用)は、潜水艦という狭隘なエリアでの配備を考慮して艦船用の2号電波探信儀2型改4とは根本的な異なる設計・製造がおこなわれている。
例えば、基本的なパルス繰返周波数も2500Hzから600Hzに変更されており、送信管制機と受信管制機と別々なものもが管制機として一体化されている。
更に、2号電波探信儀2型改3(潜水艦用)の索敵用(見張用)指示機の回路図を見ると、指示機の中に同期発振機の機能が同居している。
しかしながら、2号電波探信儀2型改4のブロックダイヤグラムの索敵用(見張用)指示機と同期発振機を見ても、帰線消去機能の記載はない。
このため、同期発振機の機能の中でただ記載漏れがあったと云えば簡単な話であるが、同系列の32号のブロックダイヤグラムを見ると、測距装置内にある帰線消去回路がB1(索敵用指示用ブラウン管)、B2、B3と共通に帰線消去信号を利用しているように記載されている。
B1(索敵用指示用ブラウン管)は位相調整器を通さないため、どう考えてもこの状態の帰線消去信号は利用できない。之こそ誤記であるように思われる。
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参考文献
Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946
「日本無線史」10巻 1951年 電波管理委員会
日本海軍エレクトロニクス秘史 田丸直吉 昭和54年11月 原書房
A short survey of japanese radar Volume 1 1945年11月20日
A short survey of japanese radar Volume 3 1945年11月20日
真空管物語 http://kawoyama.la.coocan.jp/tubestory.htm
無線工学ハンドブック 昭和29年11月 社団法人日本電波協会
アマチュアのオシロスコープ技術 榎並利三郎 昭和44年6月 オーム社
My Home Page(T.Higuchi) http://home.catv.ne.jp/ss/taihoh/
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