韜晦小僧のブログ 無線報国

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音叉発振器について

2011年08月28日 17時14分15秒 | 51電探試作計画

音叉発振器について

 

電波探儀機に使用するパルス発生用主発振回路については、LC自励発振回路による正弦波発生と音叉発振器によるものとにわかれている。採用の是非は不明であるが、航空機搭載用の一部の小型電波探儀機(H6,FD-2等)には音叉発振器が採用されていることが確認できる。13号電波探儀機のような地上部隊及び艦船用のものについては、LC自励発振回路が多く採用されているが、ただし、海軍レーダ徒然草のHPには、13号電探指示装置甲1型では音叉発振器が採用されているとのことだ。なお、甲2型以降については、LC自励発振回路に変更されているとのことである。音叉発振器については、東京のバザーラで十数年前、店の親爺も使用用途がわからないまま販売していた。この時購入しておいたものを写真に示すが、日本測定器株式会社の昭和19年から昭和20年3月の製造日付のはいったSB型音叉発振器である。終戦間際であるが、驚くことに品質の高い材料による大変きれいな仕上げで製造されている。ただし、誘導コイルが断線しており、このままでは使用することはできないようだ。

 

ここで、この音叉発振器を製造した日本測定器株式会社なる会社を調査するため、インターネットで検索してみると1件のみヒットした。

 

http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/prospectus.html

 

なんと、ソニーの公式ホームページの設立趣意書のページであった。 

以下ホームページの設立趣意書の関係箇所のみ抜粋する。

 

東京通信工業株式会社設立趣意書 - 井深 大

 

 戦時中、私が在任していた日本測定器株式会社において、私と共に新兵器の試作、製作に文字通り寝食を忘れて努力した技術者数名を中心に、真面目な実践力に富んでいる約20名の人たちが、終戦により日本測定器が解散すると同時に集まって、東京通信研究所という名称で、通信機器の研究・製作を開始した。 

最初は、日本測定器から譲渡してもらったわずかな試験器と、材料部品と、小遣い程度のわずかな資金をもって、できるだけ小さな形態で何とか切り抜けていく計画を立てた。 

われわれが過去に属した日本測定器株式会社は、この数少ない測定機器製造業の中でも屈指のものであって、わずかな資本と貧弱な設備を持って、極めて短日月の間に驚くべき発展を遂行し得たのも、時局とはいえ、ひとえに測定機器部門の持つ経営的特性によったものと断言でき得るのである。
日本測定器株式会社の主要製品の一つたる超短波用の真空管電圧計は、われわれの10年近い年月と血の滲むような努力の結晶であって、その一般における絶大な定評は言わずもがな、まさにわが国の世界に誇り得る測定器の一つであることは、今回米国進駐軍がこれに対し異常な感心を持ち、参考のため本国に持ち帰った事実によっても、雄弁に物語られるところであろう。
 

簡易重畳(ちょうじょう)電話装置
これは、現在の電話線になお一通話増して、二重通話を可能ならしむる(現在の線路を使用して倍の通話を可能とす)非常に簡単な装置で、すでに日本測定器株式会社において、全く他の目的を持って多年研究されたるある種の兵器を若干改良すれば、この目的を充分果し得られるのである。目下盛んに試作中なるも、これもまた当社技術陣の独壇場、お家芸の一つであって、完成の上採用となれば、その需要度は恐るべきものであろう。
 

プログラム選択受信方式
これも日本測定機器株式会社において研究完成したる兵器の応用品である。放送局において、そのプログラムごとに異なった周波数の音(例えばニュースならば「ド」、音楽ならば「レ」のごとく)を放送前にちょっと出す(ピアノを叩く程度にてよし)と、受信側ではその音の高さによって動作する周波数継電器が動作して受信機が働く。それゆえに聴取者は自分が聞きたいと思うプログラムだけのボタンを押しておけば、自動的にラジオのスイッチが入って、そのプログラムのみ聞くことができる。それが終わればやはり特定音を出し、また自動的にスイッチを切ることになる。その他、この装置を用い自動的に時報に時計を合わせることも可能である。
 

その他特殊部品
 音又発振器、濾波(ろは)継電器、音又時計等のごときは、当社独特のもので、戦争目的をもって研究・製作してきたもののうち、今後の通信技術方面に転換利用可能なるもの数多くあるをもって、各方面の要求に応じ、逐次製作していく予定なり。
 

この音叉発振器の現物をみると、日本測定器株式会社なくして、ソニーの創建はなかったということがよくわかる。ただ、今日のソニーの凋落については残念でたまらない。もう一度、創業の精神に戻ってもらいたいと祈るばかりである。 

 

音叉概観

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電探指示装置丙1型復元作業

2011年08月28日 17時10分38秒 | 51電探試作計画

電探指示装置丙1型復元作業

 

三式一号電波探信儀三型は、国内に2点現存が確認されているが、いずれも、指示装置は現存していない。 

このため、当面の目標については電探指示装置丙1型の復元を行い、最終目標としては、送信機、受信機そのものを新規に復元し、最終的には試験電波でもいいから発射して、Aスコープによる反射波を見てみたい。だいぶ古い話だが、アマチュア無線の144MHz帯の最後部のバンドはレーダ試験用に割り当てられているはずだ。 

そういう意味で、手始めに新規に電探指示装置丙1型の復元を行うこことした。 

基本的なキーワード 

まず、レーダの基本事項について以下簡単に説明する。 

海軍: 電波探信儀
陸軍: 電波警戒機(索敵用)、電波標定機(測定用)
 

当時の日本の電波探信儀は、PPI方式ではなく、Aスコープと呼ばれるものである。 

数学的根拠については以下のとおりである。 

L = S / 2 * C  

     L:距離、S:時間、C:光の速度(30万キロメートル/秒) 

L=300Kmの距離は、S=0.002秒かかることがわかる。したがって、500Hzのパルスが必要となる。 

また、L=20Kmの距離は、S=0.00013333秒かかることがわかる。したがって、7.5kHzのパルスが必要となる 

三式一号電波探信儀三型では、主発振に500Hzのパルスを使用し、最大300Kmの距離を監視することができる。ただし、帰線消去の関係により、240Kmが観測の限界となる。 

また、本機の特徴である目盛管制については、指示器のブラウン管に20Km単位に目盛表示することができる。 

なお、海軍レーダ徒然草に具体的なブラウン管の表示イメージがあるので参考にしてほしい。 

この目盛管制機能については、日本のオリジナル技術ではなく、フィリピンで鹵獲した米軍使用のSCR-268型からの転用技術ではないのだろうか。将来、米国の資料との比較・検証をしてみたい。 

指示装置の回路構成について 

         LCブロッキング発振 → プレート検波・微分回路(X軸偏向) 

          (7.5kHz)同期 

            ↑ 

500HzLC自励発振 → 鋸波成形 → 増幅 (X軸偏向入力) 

     ↓ 

      移相 → パルス成形 → 増幅(送信機同期パルスへ) 

パルス受信増幅 →(Y軸偏向入力) 

回路の特徴 

指示装置については、ある意味単なるオシロスコープであることから、戦前から製造技術については十分経験しているはずである。このため、鋸波の発生については基本的にはサイラトロン〔定番のTY-66G〕を使用すれば簡単なはずだが、LC自励発振回路を採用している。鋸波の成形には、当時最新の過渡現象を利用している。また、目盛管制に6C6を2本も使用し、テレビジョンの垂直同期回路同様に7.5kHzの発振に500HzLC自励発振からの同期を取っている。本来なら、ブラウン管の目盛スケール板に20Kmの表示マークをつける程度の話に見えることなのだが・・・。 

 

復元作業について 

500HzのLC自励発振回路については、点火から40分程度で安定動作したが、許容誤差2%以内になんとか入る程度の精度であった。やはり、音叉発振器のほうが精度が高いのではないだろうか。試せないのが残念である。 

 

1.電探指示装置丙1型取扱説明書(昭和20年4月2日の日付) 

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11.目盛管制のイメージ

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10.水平鋸波(不完全)

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9.水平発振

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8.試験組立用バラック

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7.フィリピン鹵獲の米国製レーダ

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6.フィリピン鹵獲の米国製レーダ

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5.フィリピン鹵獲の米国製レーダ

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4.回路図

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3.ブロックダイヤグラム

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2.電探指示装置丙1型装置の概観

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