実務家弁護士の法解釈のギモン

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譲渡制限特約付債権の譲渡(6)

2018-06-20 11:23:07 | 債権総論
 別の角度から譲渡制限特約付債権の悪意・重過失ある譲受人に対する譲渡の問題点を指摘してみる。

 現行法では、合意による差押禁止財産を作り出すことを認めるものではないという理由で、譲渡禁止特約付債権であっても、その債権を差し押さえることは認められていた。この考えは、新法になっても変わらないはずで、むしろ、新法ではこのことを明文をもって定めるようになった。
 ところが、新法になって解説書のような考えを前提とすると、譲渡制限特約付き債権が悪意重過失の譲受人に譲渡された場面に限定はされるが、事実上、差押えの効力を奪い取ることができる場面を生じさせてしまっているのである。これは、合意による差押禁止債権を作り出すことを認めないという、新法では条文まで設けた趣旨に悖るような気がしてならない。

 債権は観念的な存在である。なので、その帰属が問題となる場合、実物資産である物(物権)の帰属の場面とは異なり、一物一権主義のような考え方を厳密に取り入れる必要はないと思うのである。そのため、譲渡制限特約付債権が悪意重過失の第三者に譲渡された場合、確かに債務者以外の者との関係では譲受人に移転するかもしれないが、債務者の立場から見れば、相変わらず債権者は譲渡人なのだという相対的な関係で説明をしてはいけないのだろうか。
 このように考えて、譲渡人は、本来は譲渡してしまった債権の履行請求権は存在しないが、現実に履行請求した場合は、債務者から見れば債権者からの履行請求になると考えていいのではないか。なので、例えば期限の定めのない債権について譲渡人から履行請求があれば、債務者は履行遅滞に陥ると考えたいし、譲渡人に対して譲渡債権の債権差押命令が発令されれば、(第三)債務者には差押えによる弁済禁止効が生じると考えたい。
 それはダメなのだろうか。