実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(1)

2019-07-10 10:14:35 | 会社法
 最近の判例時報で、金融商品取引法に関する高裁判例が出ていたので、一言。と言っても、私自身は、金融商品取引法にそれほど詳しいわけではない。単に会社法の延長部分について多少の知見があるだけなのだが、少し気になる判例であった。

 前提として、「募集」、「売り出し」について少し説明をした方がいいであろう。

 例えば、株式の新規上場時に、募集株式の発行の方法で広く一般投資家に発行したり、創業家が新規上場時にその有する既発行株式を一般投資家に売り出したりする場合、金融商品取引法が定義する「募集」または「売り出し」に該当することになる。この場合、当該株式の発行会社は、有価証券届出書の内閣総理大臣への届出をする必要がある。有価証券届出書には、「募集」または「売り出し」をする株式についての証券情報及び株式発行会社の企業情報等が詳細に記載される。
 この有価証券届出書は、公衆に縦覧されることになる。現在の仕組みでは、Edinetという開示用電子情報処理組織通じて、誰でもネット上で閲覧できる。このことによって、市場において「募集」または「売り出し」が行われる株式の評価が可能になる。この有価証券届出書の届出と公衆縦覧を、間接開示ということがある。

 有価証券届出書の届出とともに、実際に一般投資家に「募集」または「売り出し」をする株式の購入を勧誘し取得させるには、株式発行会社が目論見書を作成し、販売担当者が投資家に交付しなければならない。目論見書には、有価証券届出書記載事項がほぼそのまま網羅される。このことにより「募集」または「売り出し」により株式を購入しようとする投資家は、直接、証券情報及び企業情報等を知ることができる。投資家に直接交付する書面なので、直接開示にあたる。
 投資家への株式の販売行為は、実際には証券会社(金融商品取引業者)が担当することがほとんどで、証券会社が「募集」または「売り出し」をする株式全部をいったんすべて買取って、証券会社の責任で一般投資家に販売する方法(これを「買取引受」という言い方をする場合がある)や、とりあえずは証券会社は一般投資家への販売仲介をするに過ぎず、売れ残った残部のみを引き受ける方法(これを「残額引受」と言う言い方をする場合がある)がある。これにより、「募集」をする株式発行会社や「売り出し」をする創業家は、売れ残りの心配をせずに済むことになる。
 証券会社とするこうした契約のことを、元引受契約という言い方をし、元引受契約をした証券会社のことを、元引受証券会社という。現場での株式の販売活動は、この元引受証券会社さらにはその下請けたる証券会社が、目論見書その他の資料を用いて一般投資家に株式を販売することになる。