実務家弁護士の法解釈のギモン

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判例は形式的表示説?(2)

2016-06-15 11:03:57 | 民事訴訟法
 当事者確定の問題に絡んだ判例として、よく昭和48年の判例が引用される。簡単に事案を説明すれば、賃料不払いを理由に契約を解除したとして、賃借人であったというNという会社を相手に明け渡しを求めて訴えを提起した事案であるが、実は、契約解除された後訴え提起時までに、N社(旧会社)は商号をすでに別の商号に変えていて、あらたにNという商号の別会社(新会社)を設立していた事案であって、新会社の商号、代表者、本店所在地等は、すべて旧会社と同じだったという。このような状態で「N」という会社を被告として訴えを提起した事案である。

 さて、この事案で、被告は旧会社か新会社か?
 最高裁の結論は、新会社が被告であることを前提に、実体法上の法人格否認の法理を背景として原告勝訴判決を是認している。

 ところが、学者がこの判例の事案を整理すると、一般に訴え提起時の被告は旧会社と考えざるを得ないと理解しているようである。なぜなら、意思説を採れば、旧会社を被告とする意思であったといえるし、行動説を採れば、被告側はあたかも旧会社の代表者であるかの如くに行動していたからであり、実質的表示説を採れば、請求の趣旨、原因まで考慮して考えると、原告が明け渡しを求めている当該物件を賃借し賃料不払いをした会社であり、その当時の「N」という商号社であった旧会社こそ被告であると理解できるからである。
 通常の学者の理解では、どの説を採っても訴え提起時の被告は旧会社で、旧会社を相手取って訴えを提起したにもかかわらず、最高裁は意識的にかあるいは無意識的にか、上告審の判決においては新会社を被告として判決をしたと考えるらしいのである。