実務家弁護士の法解釈のギモン

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詐害行為取消権の再構成(3)

2011-03-29 13:06:53 | 債権総論
 ところで,そもそも詐害行為取消権のねらいは何なのか。
 言わずもがなのことで,債務者の責任財産から逸失した財産を取り戻すことである。しかし,その影響(特に受益者に対する影響)を最小限に抑えるために,相対効といってみたり,あるいは責任説的な立場が生じたりする。
 このような論理の混乱が生じる原因は,法文が「法律行為の取消し」を請求できるとなっているからではないかと,最近になって思うようになってきた。

 法律行為を取り消すということは,たとえば取り消される対象が売買契約上の売却の意思表示であることを前提に,字義通りに考えれば,売却の意思表示を取り消してしまうのであるから,売買契約の成立そのものを否定するということにつながる。これを絶対効的に考えれば,制限行為能力者の取消権などと全く同じ効果ということになる。私も,以前はこのように考える方が取消権を統一的に考えることができてよいのではないかとも思っていた。
 しかし,詐害行為取消権とほかの取消権とでは,そのねらいについても若干の違いがある。制限行為能力者の取消権や,瑕疵ある意思表示をした者の取消権その他一般の取消権は,その法律行為を完全に否定して,法律状態を完全に元に戻すことがそのねらいである。これに対して,詐害行為取消権においては,強制執行が可能な程度に取り消せれば目的は達成するのである。債務者の責任財産に戻すことができさえすれば,それでよいのである。このことも言わずもがなのことで,だからこそ,相対効といい,あるいは責任説的説明の妥当性が議論されるのである。

 この,ねらいの相違点を考えたときに,詐害行為取消権の影響を最小限に抑えつつ,責任財産を構成させる方法としては,別の視点からの考察も可能ではないかと思うようになってきた。
 どういうことかというと,法文は「法律行為の取消し」となっているが,取り消されるのは,本来の意味での「法律行為」ではなく,その法律行為によって生じる「法律効果」のみを取り消せれば,それでよいのではないか,と思うようになってきたのである。