Reflections of Tomorrow

シンガーソングライターを中心に、知られざる未CD化レコードを紹介していくページです

Steve Weichert

2008-11-29 | SSW
■Steve Weichert / Steve Weichert and The Five Dollar Band■

  マイナーレーベルの作品には品番 1001 を与えられたアルバムが多く存在しますが、今日取り上げた Steve Weichert のデビュー作もその一つです。 1974 年にテキサス州とオクラホマ州でレコーディングされ、翌 1975 年に無名のレーベル Barky Records からリリースされました。 
  Steve Weichert は地元テキサスを離れずに今も現役で活動しているシンガーソングライター。 公式サイトに載っているすっかり白髪になってしまった彼の風貌と、このアルバムのジャケットに描かれているイラストの表情を見比べると、顔の輪郭や目の周りなどに共通点を感じることができました。

  そんな Steve Weichert はオクラホマ大学に在学していた 1960 年代後半からバンド活動をしていました。 CSN&Y のフォロワー的な音楽を演奏していたようですが、たしかにこのアルバムからはその影響を感じます。 ギターを中心としたメロウなアレンジ、美しいハーモニー、繊細で温かみにあるボーカルが交じり合ったサウンドはローカル産のレコードとは思えない完成度の高さを見せています。 ライトタッチでメロウなアコースティック・ギターが印象的な「Stranded」、淡々とした弾き語りの「Lady Luck」、手触り感覚のバラード「High Plains Drifter」など、アルバムは聴き手の部屋の空気を優しく包み込んでいきます。 他の曲も含めて、クオリティの高い A 面のなかでもとくに秀逸なのが「Spinnin’ Round」です。 音楽による究極の和みもしくは魂の救済といった領域が見え隠れする、そんな楽曲です。

  ほぼ完璧な A 面に対して、B 面は少し表情が変わってきます。 6 曲中 4 曲が A 面には無かったオクラホマ録音ということも影響していると思いますが、全体的にスワンプ色が出てきているのです。 唯一サックスやエレピが入った「My Sweet Germane」は二日酔いのような気だるさを感じる異色な曲。 Steve Weichert 単独の弾き語り「Blonde Over Blue」につづく「I Keep Wonderin’」はついに R&B 色が表れてきます。 明らかに A 面とは異なる展開にとまどうのですが、ここからの 3 曲で持ち直してきます。 「Lovely Lady」で Steve Weichert 本来のメロウ感を取り戻し、AOR 前夜のサウンドに近いコーラスを聴かせる「Storm」で再びアルバムは本来の世界に舞い戻ります。 ラストの「Wind It Up」はメランコリックなハープと、CSN&Y ばりのコーラスが切ない心象風景を見事に描ききっています。 全 12 曲の中でこの曲をラストに添えたセンスはさすがです。

  こうしてアルバムを聴いてみると、そのクオリティの高さを再認識しました。 アメリカ南部の SSW 作品とは思えない透明感と繊細さが同居しており、B 面の前半を除いては、スワンプの匂いが全くしないところも特徴と言えるでしょう。 ギターとボーカルとコーラスという最低限の要素をみごとに昇華させたサウンドは、Steve Weichert の才能がデビュー作から開花したことを示しています。 
  Steve Weichert は公式ページによると、「Oklahoma Bossa Nova」(1979年)、「If You’re Ever Been In Love」(1984年)、「Abide By The Light」(1994年)、そして 2003 年の最新作「between the Lines」まで計 5 枚のオリジナル・アルバムを発表しています。 最近では 10 年に 1 枚という寡作ぶりですが、soulful folk ballads with a jazz twistと評される彼のサウンドは、きっとこの 5 枚の作品に渡って貫かれているのでしょう。



■Steve Weichert / Steve Weichert and The Five Dollar Band■

Side-1
Stranded
Lady Luck
High Plains Drifter
Blue Bandanna
Wellin’ Time
Spinnin’ Round

Side-2
My Sweet Germane *
Blonde Over Blue
I Keep Wonderin’ *
Lovely Lady
Storm *
Wind It Up *

Produced by Steve Weichert for Barky Productions
Recorded and Mixed at Odyssey Sound LTD, Austin Texas
* Recorded at Nightfire, Inc. Norman, Oklahoma

Steve Weichert and The Five Dollar Band: Jay Gabbard, Lambert Phillips and David Teaff

Steve Weichert : all lead vocals, acoustic guitar,
Jay Gabbard : electric guitar, classical guitar, sax, cello, mandolin
Lambert Phillips : bass, backup vocals
David Teaff : backup vocals , harp, harmonica

Steve Grunder : electric piano
Tomas Ramirez : soprano sax

Arrangements by Steve and Jay

Barky Records SW 1001