徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:ピエール・ルメートル著、橘明美訳『わが母なるロージー』(文春文庫)

2020年05月24日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行


『わが母なるロージー』は、ヴェルーヴェン警部シリーズ3部作『悲しみのイレーヌ』、『その女アレックス』 、『傷だらけのカミーユ』 の番外編で、時系列では『傷だらけのカミーユ』 の前に位置付けられる中編です。

この物語はなぜか、「父親が死んでしまう」恐怖に憑りつかれている少年の話から始まります。少年は父親が死なないように毎日なんらかの厄払いをしていて、その日は音楽教室に行く道で、「歩道の継ぎ目を踏まなければ、パパは死なない」というものでした。しかし、途中の工事現場に差し掛かった頃に歩道の向こうに父親の姿を認め、うっかり歩道の継ぎ目を踏んでしまった瞬間にそこに仕掛けられていた爆弾が爆発し、父親も少年も吹き飛ばされてしまいます。幸い死者は出ませんでしたが。
そして、その現場をこっそりと離れていく男が1人。ジョンことジャン・ガルニエというこの男がこの爆弾を仕掛けた張本人で、ふてぶてしく警察に自首して、説明する相手としてヴェルーヴェン警部を指名します。
せっかく恋人アンナのところへ行こうとしていたのに呼び出されたヴェルーヴェン警部は仕方なく駆けつけてジャンの取り調べをします。ジャンは、爆弾は全部で7発仕掛けてあり、毎日1発ずつ爆発するようにしてあると脅して、拘留中の彼の母ロージーの釈放と、オーストラリアへの渡航支援および現金400万ユーロを要求します。
こうして、国家権力と爆弾犯人ジャンとの攻防の火蓋が切って落とされるわけですが、テロ対策班がジャンを荒っぽく締め上げて残りの爆弾の場所を吐かせようと躍起になっている一方でヴェルーヴェン警部は、ジャンの本当の目的を知るために、彼の母親ロージーが起こした事件を洗い直していきます。
そこで明らかになって来る歪んだ親子関係。母の異常な息子への執着と息子の母への反発と慕情は一筋縄ではいかず、悲劇的な結末へ向けて収斂していきます。

この中編は他のヴェルーヴェン警部シリーズ作品に比べると、サスペンス的緊迫感は少ないような気がします。この作品では悲劇的な結末の予感は裏切られることはないのですが、その方向性には「そう来るか」と感心してしまうような意外性があります。

(ご購入はこちら

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

書評:ピエール・ルメートル著、『その女アレックス』(文春文庫)

書評:ピエール・ルメートル著、『悲しみのイレーヌ』&『傷だらけのカミーユ』

書評:ピエール・ルメートル著、『死のドレスを花婿に』(文藝春愁)

書評:ピエール・ルメートル著、『天国でまた会おう』上・下(ハヤカワ・ミステリ文庫)

書評:ピエール・ルメートル著、『監禁面接』(文春e-book)