徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:大野和基・編、『コロナ後の世界』 (文春新書)

2022年05月04日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教


新型コロナウイルスが国境を越えて感染を拡大させる中、現代最高峰の知性6人に緊急インタビューを行い、世界と日本の行く末について問うた本書は、2020年3月の時点から見た未来考察であるため、その後のパンデミックの展開や現在のウクライナ戦争などはもちろん考慮に入れられていません。
しかしながら、その時点でジャレド・ダイアモンド、ポール・クルーグマン、リンダ・グラットン、マックス・テグマーク、スティーブン・ピンカー、スコット・ギャロウェイの6人がどんな根拠を基にどのような未来考察を行い、どのような行動の提案を行ったのかを知るのは興味深く、示唆に富んでいます。
彼らの提案は、その後の状況変化によって修正されるべき点がほとんどない普遍性のある指針でもあるため、一読に値します。

[主な内容]
  • ジャレド・ダイアモンド「21世紀は中国の時代にはならない」
    (カリフォルニア大学ロサンゼルス校地理学教授。著書『銃・病原菌・鉄』)
  • マックス・テグマーク「AIで人類はもっとレジリエントになれる」
    (マサチューセッツ工科大学教授。著書『LIFE3.0 人工知能時代に人間であるということ』)
  • リンダ・グラットン「ロックダウンが日本人の新しい働き方を生んだ」
    (ロンドン・ビジネススクール教授。著書『ライフシフト 100年時代の人生戦略』)
  • スティーブン・ピンカー「人間の認知バイアスが感染症対策を遅らせてしまった」
    (ハーバード大学心理学教授。著書『21世紀の啓蒙 理性、科学、ヒューマニズム、進歩』)
  • スコット・ギャロウェイ「パンデミックでGAFAはますます強大になっていく」
    (ニューヨーク大学スターン経営大学院教授。著書『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』)
  • ポール・クルーグマン「経済は人工的な昏睡状態。景気回復はスウッシュ型になる」
    (ノーベル経済学賞受賞者。著書『格差はつくられた 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略』)
結論から言えば、パンデミックによって人類の変化の方向性が180度転換したということはなく、兆しでしかなかった変化がパンデミックによって加速したと言えるでしょう。「いつか来る」と思われていたものが「今来た」、あるいは「まだ先」と思われていた話が「ほんの数年後」に実現の目途が立った、ということです。
ただ、誰もがこうした未来予測を普段から考察またはそうした考察を読んで知っているわけではなかったので、天変地異が起こったかのように感じられたのでしょう。

スコット・ギャロウェイ氏が、GAFAの棲み分けが破られた今、その中で勝ち残るのはAmazonだと予測しているのは面白いですね。
AI・イーコマース・物流を押さえているAmazonは確かに現状では最強ですが、トップ交代が起こって経営方針や事業戦略に変化があればその限りではないことは自明です。

日本については、少子・超高齢化社会プラス移民をあまり受け入れない体制の問題性が挙げられ、女性の労働力をきちんと活用できる制度にしていかないと日本の未来が暗い、という大筋で著者らの意見の一致があるようです。詳論では、それぞれの専門分野の違いもあってアプローチが異なりますが、全てを実行に移したとしても矛盾は出てこないように思えました。