『隠蔽捜査』は第27回吉川英治文学新人賞受賞作かつ第2回吉川英治文庫賞受賞作と言うだけあって読み応えある警察小説です。2005年の作品で、文庫化は2008年。シリーズの第1弾で、現場の刑事の活躍ではなく警察庁のキャリア官僚を描くところが普通の警察小説とは一味違っています。
主人公は警察庁長官官房総務課長の竜崎伸也(46)。連続殺人事件のマスコミ対応に追われながら、事件の真相(現職警察官が犯人)に気づき、隠蔽という愚によって警察機構の威信が地に落ちるのを防ぐために奔走します。一方、浪人中の息子がヘロインを吸っている現場を発見してしまい、対応に悩みます。エリート意識は強いものの、建前や原則を守る一本気な姿勢によってかなりの変人扱いを受けていますが、こういう官僚ばかりならばさぞや日本という国もましな国になるであろうと思えるような好人物です。同僚の伊丹刑事部長に小学校の時にいじめられていた恨みを抱き続けているなど大人気ない所もご愛敬ですかね。
庁内の勢力争いや様々な人間関係の縺れなど、現実にどれほど即しているのかは分かりかねますが、臨場感とドラマがあり、中間管理職としての葛藤などがひしひしと伝わってくる素晴らしい筆致です。
竜崎夫人は専業主婦で、最初はなんというか世間体とかそういうのに囚われているタイプの人なのかと思いましたが、なかなか肝の坐った味わい深いキャラで感心してしまいました。
書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)
書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫