徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:上杉聰著、『日本会議とは何か 「憲法改正」に突き進むカルト集団 』(合同出版)

2017年12月18日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

日本の政治の動向は日本会議を抜きには理解できない面も多々あるので、上杉聰著、『日本会議とは何か 「憲法改正」に突き進むカルト集団 』(2016年5月発行)を読んでみました。なかなか複雑な成り立ちで、神道系だけかと思いきや、キリスト教系や仏教系の宗教団体も合流しているなど意外な事実が明らかにされていて、興味深い本でした。

目次は以下の通り。

序章 日本政治の大きな焦点・憲法改正

第1章 改憲の推進勢力—―日本会議の実態

第2章 日本会議とはどんな組織か

第3章 押しつけ憲法論と憲法第9条の真実

第4章 日本会議の教科書運動

第5章 育鵬社は大阪でどのようにして大量採択を実現したか?

おわりに 日本会議と今後

 

第3章の「憲法第9条の真実」は「自衛隊は違憲」と考える人たちにとっては青天の霹靂かもしれません。憲法改正小委員会の議事録が1995年まで非公開だったために、憲法学者の間でもほとんど知られていなかったらしいのですが、9条には当初から自衛権が想定されており、それを元に「専守防衛」という法文解釈が成立してきたのだそうで、私もびっくりしました。

マッカーサーは当初は「憲法3原則」の第2として日本には自衛戦争さえ認めないとしていましたが、草案を作成する過程で「自国の安全を保持する手段としても」が削られた経緯があるそうです(本書p53-54)。その理由としては、その前年に調印された国際連合憲章の第51条が武力による自衛戦争を認めているために、日本の自衛権を否定することには「無理がある」と憲法の実務に当たっていたケーディス氏が証言しています(本書p54)。

そして、「専守防衛」の解釈が正しく、自衛隊の存在が合憲であることを示すのが、憲法担当大臣だった金森徳次郎氏の発言で、それによると、第1項では永久性を持たせているが、「国際連合との関係で戦力を持つことを可能にするため、第9条第2項にある戦力不保持に永久性を持たせないようにした(将来、戦力を持てるようにした)」ということです。つまり日本国憲法成立当初から自衛隊のような戦力の保持が想定されていたことになります(本書p56)。

裏を返せば、現在安倍政権がやろうとしている「自衛隊を憲法で明言する」加憲はまったく不必要ということになります。

ただ、憲法は自衛権を否定するものではないとはいえ、「積極的に自衛権を行使する」とも言っていないので、これが「専守防衛」の根拠になるわけですが、改憲派の目的はこの「専守防衛」を打ち崩すことにあるのでしょう。

この辺は平和主義を掲げる護憲派もきちんと勉強しておかなければならないでしょう。9条が完全な戦争放棄・戦力保持放棄を定めるものではないこと、その性質をきちんと理解した上で改憲論議に臨む必要があると思います。

憲法改正の動きと同時に、積極的に戦争する場合に戦争に行く当事者となり得る世代に早いうちから洗脳を施しておく目的で教科書運動も日本会議が積極的に進めているということは危機感を持って認識すべきでしょう。本書の第4・5章で論じられている育鵬社の問題教科書の採用率はまだ極めて低いですが、それが低いままに抑制されるようにシビリアンコントロールが必要です。

また、日本会議の教科書を発行する育鵬社は、フジ・メディア・ホールディングスの100%子会社として2007年にわざわざ教科書を発行するためだけに発足したこと、そしてその発足の際に安倍晋三からフジ・メディア・ホールディングス代表取締役会長・日枝久への口利きがあった(本書p70)こともしっかりと認識しておくべきでしょう。

恐るべきはその組織力ですね。

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