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卯月妙子『人間仮免中』

2012-06-29 05:25:00 | ノンジャンル
 高橋源一郎さんが朝日新聞で絶賛していた、卯月妙子さんの'12年作品『人間仮免中』を読みました。実体験に基づいたノンフィクション・マンガです。
 いきつけのスナックで全裸の客の肛門近くにおまんこ印の落書きをする36才の著者は、そのそばに「野菊のバカ 伊藤佐千夫」と書く26才年上のボビー(日本人)に一目惚れしてしまい、その場で交際を申し込みます。還暦過ぎの自分と一緒になることを再考しろと言うボビーを押し切って、彼の部屋で同棲を始める著者。トイレで幻覚を見た著者は、統合失調症にもかかわらず、最近薬を飲んでいなかったことに気付きます。
 舞台の仕事を手伝うために、勇気を持って電車で現場に着いた著者は、幻覚の嵐に会い、頓服薬をがぶ飲みし、殺人欲求の幻聴も始まると、最後の手段としてボールペンで腕に傷をつけます。3番目の女房に出て行かれて11年のボビーは、著者のまずい手料理にも心なごませます。
 20才の頃、著者の夫は会社が倒産し、著者は生活のため、SMや排泄物や嘔吐物、ミミズを喰うというAVに出演するようになりますが、見込みのない企画を立ててはその度に大金を失う夫に愛想をつかし、その結果、夫は投身自殺、著者は背中に夫の戒名と般若心境の刺青をします。
 著者のマンガ人生は20才の時にレディコミでデビューし、以降SM雑誌などでエッセイ漫画を書くも、稲中にショックを受け、ギャグ漫画家として再デビュー、その後、症状が悪化しつつも描き続け、単行本も2册刊行し、これまでの経験を生かして精神科の閉鎖病棟の話をかなりの執念で描いたものの何回目かに入院で挫折、それ以降マンガが描けなくなりストリップ嬢に転身、それも舞台上で首を切るという事件で引退、その後、AV嬢へと転身していたのでした。
 友人を自宅に招くと、それに嫉妬した癇癪持ちのボビーに腹を立て、割れたビール瓶で自分の首を切る著者。それでいてカップル喫茶や乱交パーティーに著者を誘うボビーは、会社では社長の信任が厚く、次期社長である社長の息子・常務に取付いている身勝手な専務と対立していました。ケンカを繰り返しながらも、酒を酌み交わし、セックスを重ねるボビーと著者。ケンカが高じて薬を大量に飲んで自殺未遂を起こす著者は、ボビーの提案で3ヶ月の別居をし、お互いの気持ちを確かめることにしますが、結局なし崩し的に再び同棲することになります。高校に受かり上京してくることになった著者の1人息子シゲルに、自分の存在を知らせまいとするボビーは、あこぎな商売をしていた若い頃の話をします。
 著者は舞台の仕事ができないほど症状が悪化し始め、希死念慮も始まり、舞台を休んで一時症状が好転し、性器の両脇にボビーの本名の刺青を入れてボビーに覚悟を固めさせますが、ボビーの会社の社長が死に、保証人の借金も背負うこととなり、二人は以前に比べて質素な生活を強いられます。そんな折り、舞台へ復帰しないかという誘いが来ると、著者は医者が止めるのにもかかわらず舞台に立つ決意を固め、ヨガを始めて体調がよくなったので薬も自分の判断で減らしてしまい、万能感が始まり、カリスマ占い師になるという妄想も抱き、気分が不安定になりボビーとの仲も険悪になると、躁状態になって、歩道橋から飛び降ります。
 顔から道路に突っ込んだ著者は顔面を粉砕骨折し、右目の視力を失い、顔も見るも無残な状態に破壊され、しかも統合失調症の薬を飲めない状態に陥り、自分とボビーが病院によってともに殺され、その動画がネットに流されるという妄想に延々と捕らわれます。それでも何とか手術によって見られる顔となり、投薬によって正気に戻り、ひどい痛みとしばしば現れる統合失調症の症状に耐えながらも回復すると、ボビーから求婚されます。それを聞いて泣く母。今回の事故で、かえって人情の暖かみを感じられるようになった著者は、第二の人生をスタートさせることを決意し、専務の入れ知恵でボビーと別居せざるを得なくなっても、再びボビーと暮らせる日を楽しみにして岩手の施設で新生活を始めるのでした。

 歩道橋から飛び降りた後の妄想が『粘膜人間』での死の幻想を思わせる迫力で、ここまでよく覚えているものだと感心しました。統合失調症を理解する上でも、最適な本の一つだと思います。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/