河野多惠子さんと山田詠美さんの対談本『文学問答』の中で、詠美さんが絶賛していた河野多惠子さんの'90年作品『みいら採り猟奇譚』を読みました。
1941年、相良比奈子は女学校を卒業するとすぐに、38才で内科医を開業している尾高正隆と結婚します。尾高家は医学者・医家一族で、比奈子の父・相良祐三も外科医を開業していました。祐三には子が比奈子1人しかなく、比奈子よりもずっと年上の養子・邦夫を比奈子と結婚させようと思っていましたが、邦夫は服毒自殺してしまい、そんな事情を持つ比奈子と、38才でまだ独身で尾高家の次男であり、母がドイツ人とのハーフである正隆との縁談が生じると、祐三はすぐに比奈子を嫁にやってしまい、相良家ではいずれまた養子をもらえばいいと思います。比奈子は正隆の父が妻のことを「あんた」と呼ぶのに好感を持ち、祐三も正隆の父が自分と仲の悪い義父に対し、自分のことを擁護してくれていることを知って正隆の父に好感を持っているのでした。
正隆は比奈子と最初に顔を会わせ、二人きりになると、お互いに嫌いなものをあらかじめ言っておこうと言います。比奈子が鳥が好きではないと言うと、正隆はその部屋にあった鳥籠の中の鳥を、その場で放ってやります。
結婚後、比奈子は夫婦の営みの日にちを1回目から書き留めておこうとしますが、途中から、それが営みとして数えていいものかどうか分からなくなってきて、その習慣は途絶えてしまいます。それは正隆が比奈子からいたぶられるのを好む嗜好がはっきりしてきて、比奈子もその嗜好に付き合ううちに、自らも快感を得るようになってきたからなのでした。また、正隆の背中には昔付き合っていた女に付けられた古い傷痕があり、やがて彼らの結婚を知ったその女から手紙が届くようになりますが、時節柄、手紙の検閲が始まったことにより、もう手紙を書いて寄越さないようにと比奈子がその女に手紙を出すと、住所不明で戻ってきます。
それからはしばらく、比奈子は尾高家の女性たちと楽しい時間を過ごすようになります。一方、正隆のマゾぶりもエスカレートしていきます。
しかし時代は戦争へと一方的に進んで行き、家庭の女性にも勤労奉仕が望まれるようになっていきます。祐三は新しい養子を見つけていなかったため、比奈子は書類の上ではまだ相良家の後継者であり、正隆との結婚届もまだ役所に出していない状態でした。そうした状態を周囲は許さぬ方向に進み、祐三はやっと新たな養子を迎え、比奈子は正式に正隆の妻となります。
そして正隆は折りを見て比奈子のことを「小さい」と言って楽しむようになり、そんな正隆を比奈子も微笑ましく思います。
やがて東京に空襲の危機が迫り、正隆の実家は山梨に疎開できる準備を整え、正隆と比奈子も、身の周りの物以外の大切な物は、祐三が海辺に持つ別荘に運び込みます。毎日のように警戒警報と空襲警報が続く中、東京大空襲の日を迎え、正隆と比奈子は家を失い、祐三の別荘に引越すことになります。平和な別荘での暮らし。敵が上陸してくるとの噂から、別荘のある辺りは人も閑散とし、静かな時が流れます。
そして二人の営みは増々エスカレートして、ついには比奈子は正隆の望みの通り、彼の首を絞めて殺します。そこには二人だけの穏やかな興奮があったのでした。
日々の暮らしが淡々と綴られていて、谷崎の『細雪』を想起したりもしました。SMの倒錯的な喜びに没入していく比奈子の心情描写にはついていけない部分もありましたが、それ以外に関しては、静かな読書の喜びを味わえたと思います。また、この内容でこういう題名をつけるというのも面白い感性をしてらっしゃると思いました。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
1941年、相良比奈子は女学校を卒業するとすぐに、38才で内科医を開業している尾高正隆と結婚します。尾高家は医学者・医家一族で、比奈子の父・相良祐三も外科医を開業していました。祐三には子が比奈子1人しかなく、比奈子よりもずっと年上の養子・邦夫を比奈子と結婚させようと思っていましたが、邦夫は服毒自殺してしまい、そんな事情を持つ比奈子と、38才でまだ独身で尾高家の次男であり、母がドイツ人とのハーフである正隆との縁談が生じると、祐三はすぐに比奈子を嫁にやってしまい、相良家ではいずれまた養子をもらえばいいと思います。比奈子は正隆の父が妻のことを「あんた」と呼ぶのに好感を持ち、祐三も正隆の父が自分と仲の悪い義父に対し、自分のことを擁護してくれていることを知って正隆の父に好感を持っているのでした。
正隆は比奈子と最初に顔を会わせ、二人きりになると、お互いに嫌いなものをあらかじめ言っておこうと言います。比奈子が鳥が好きではないと言うと、正隆はその部屋にあった鳥籠の中の鳥を、その場で放ってやります。
結婚後、比奈子は夫婦の営みの日にちを1回目から書き留めておこうとしますが、途中から、それが営みとして数えていいものかどうか分からなくなってきて、その習慣は途絶えてしまいます。それは正隆が比奈子からいたぶられるのを好む嗜好がはっきりしてきて、比奈子もその嗜好に付き合ううちに、自らも快感を得るようになってきたからなのでした。また、正隆の背中には昔付き合っていた女に付けられた古い傷痕があり、やがて彼らの結婚を知ったその女から手紙が届くようになりますが、時節柄、手紙の検閲が始まったことにより、もう手紙を書いて寄越さないようにと比奈子がその女に手紙を出すと、住所不明で戻ってきます。
それからはしばらく、比奈子は尾高家の女性たちと楽しい時間を過ごすようになります。一方、正隆のマゾぶりもエスカレートしていきます。
しかし時代は戦争へと一方的に進んで行き、家庭の女性にも勤労奉仕が望まれるようになっていきます。祐三は新しい養子を見つけていなかったため、比奈子は書類の上ではまだ相良家の後継者であり、正隆との結婚届もまだ役所に出していない状態でした。そうした状態を周囲は許さぬ方向に進み、祐三はやっと新たな養子を迎え、比奈子は正式に正隆の妻となります。
そして正隆は折りを見て比奈子のことを「小さい」と言って楽しむようになり、そんな正隆を比奈子も微笑ましく思います。
やがて東京に空襲の危機が迫り、正隆の実家は山梨に疎開できる準備を整え、正隆と比奈子も、身の周りの物以外の大切な物は、祐三が海辺に持つ別荘に運び込みます。毎日のように警戒警報と空襲警報が続く中、東京大空襲の日を迎え、正隆と比奈子は家を失い、祐三の別荘に引越すことになります。平和な別荘での暮らし。敵が上陸してくるとの噂から、別荘のある辺りは人も閑散とし、静かな時が流れます。
そして二人の営みは増々エスカレートして、ついには比奈子は正隆の望みの通り、彼の首を絞めて殺します。そこには二人だけの穏やかな興奮があったのでした。
日々の暮らしが淡々と綴られていて、谷崎の『細雪』を想起したりもしました。SMの倒錯的な喜びに没入していく比奈子の心情描写にはついていけない部分もありましたが、それ以外に関しては、静かな読書の喜びを味わえたと思います。また、この内容でこういう題名をつけるというのも面白い感性をしてらっしゃると思いました。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)