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林京子『長い時間をかけた人間の経験』その2

2012-06-17 05:06:00 | ノンジャンル
 石井輝男監督・脚本の'63年作品『昭和侠客伝』をスカパーの東映チャンネルで見ました。昭和初期の浅草に縄張りを持つ桜(嵐寛寿郎)組の舎弟である茂宗(鶴田浩二)が、卑怯な方法で新たに勢力の拡大を画策する黒帯(平幹二朗)組とその舎弟・常(大木実)に、茂宗を慕うチンピラの勝男(梅宮辰夫)と桜の叔父貴・池上を殺され、単身殴り込みをかけ、常と黒帯を殺す一方、自らも相手の刃に倒れるという話で、勝男の姉に丘さとみ、茂宗に思いを寄せる桜の娘・よし子を三田佳子、勝男の兄弟分の譲二を待田京介、茂宗の弟分の深見を内田良平が演じていました。梅宮辰夫と待田京介の若々しさを除くと、暗い場面ばかりが続く印象で、ラストの斬り込みの場面では、相手に斬りかかられる鶴田浩二が少しも防御をせず、ひたすら相手に迫っていくという殺陣のない斬り込みが印象的で、途中では鶴田浩二が黒帯の指を詰めさせた後、若い二人と必死に逃げるという、これまた珍しい場面もありました。

 さて、昨日の続きです。
 姿を消したカナの行動に、今日まで味わったことのない虚しさを感じ、生きるということは何なのだろうと問うた私は、お遍路を思いついたのでした。
 世界で最初の被爆者は1945年の7月16日未明にニューメキシコ州トリニティで行われた世界最初の核実験によって生まれ、その後、その年の8月6日の広島、8月9日の長崎、後のチェルノブイリなどで起こった核物質の拡散によって体内被爆者が広がり、現在に至っています。彼らは原爆症という明らかな名を与えられずに次々と今でも死を迎えてい続けていて、私は8月9日の平和式典後の平和公園で、ぶらぶら病のために困った時には自分の火傷痕が見えない闇の中で身を売って今まで生活してきた女性とも出会います。核実験が成功し熱狂するインドやパキスタンの民衆の姿を見て絶望する私。そして若くした死んでいった友のことを回想する私。
 しかしカナの手拭いに三十三ケ所のご朱印をもらった私は、浜辺で遊ぶ子供たちの幸せな姿を目にして、この小説は終わります。

 小説というよりは、説明文と言ってもいいような、被爆者として生きてきた林さんの軌跡が、あえて感情的になることを避けるように、淡々と綴られている文章でした。「生き残った者」として、島尾敏雄さんの文章にも通じるものがあったと思います。単行本に一緒に収められている短編『トリニティからトリニティへ』とともに、今も続く原爆被害・核の怖さ、むごさを知る最良の一冊だと思いました。

→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/