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山田詠美『マグネット』

2006-09-08 16:30:30 | ノンジャンル
 今日の山田詠美作品は「マグネット」です。8編の短編からなっている本です。
 第一話「熱いジャズの焼き菓子」は、恋人が殺人を犯し、西日の当たる暑い彼の部屋にこもる話、第二話「解凍」は、当時の恋人が目の前で焼身自殺したという体験を持つ大学時代の親友が、放火犯で捕まったことを新聞記事で知る話、第三話「YO-YO」は、バーテンとお互いに買う、買われるという肉体関係を続ける女の話、第四話「瞳の致死量」は、ニューヨークに住む恋人同志が、それぞれの部屋から向かいのビルの人々の生活を双眼鏡で覗き見する話、第五話「LIPS」は、結婚詐欺師と呼ばれる男が自己を正当化する話、第六話「マグネット」は、13才だった時、先生を誘惑して猥褻な行為に走らせた女性が、大人になってその教師が女子生徒への強制猥褻の罪で捕まったのを知る話、第七話「COX」は、今だに処女の妹が髪をバッサリ切って、ゲイバーのバーテンになり、ポルトガル人の肉体労働者と初体験を迎えるという話、第七話「アイロン」は、満員電車で痴漢に悩まされているOLが、前から目をつけ、妄想にふけっていた長身の男とたまたま電車の中で隣り合い、彼から声もかけてもらう話、第八話「最後の資料」は、上の妹の刑事だった夫が心臓疾患で亡くなり、その前後を語った話です。
 第八話は、実録小説で、実際に詠美さんの義弟が亡くなった話を書いています。葬儀の最中、嘆き悲しむ周囲の人々を不思議そうに見渡しながら、義弟の長女が「パパは死んでないよ。パパは、こんなかに、うじゃうじゃ生きてるんだよ。本当だよ」と自分の胸を何度も叩いたそうです。詠美さんはこれ程、稚拙でありながら、力強い言葉に出会ったことがない、と書かれていました。
 他の短編では、個人的には「アイロン」が面白かったかな、と思いましたが、全体的には、いつもの詠美さんの本ほど、面白さを堪能できなかったような気がします。
 読んでいない皆さんは、ご自分で読んでみて判断してみてください。