一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

「東日本大震災追悼で作品」(小川大洋)

2012-11-02 19:44:47 | コンサート情報

【断面】ベトナムの現代作曲家   東日本大震災追悼で作品   
                                           赤旗」10月16日(火)8頁より転載

 

ベトナムの現代作曲家であるグエン・ティエン・ダオさんの作品を紹介するレクチャー・コンサートが9月29日、東京の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催されました。

グエン・ティエン・ダオさんは1940年ハノイ生まれ。パリ国立高等音楽院でオリヴィエ・メシアンに師事しました。その作品は管弦楽曲、室内楽、声楽曲など多岐に渡り、ベトナムや中国の詩に着想を得た作品が多くあります。

この日、注目を集めたのは「INORI 3.11―ソプラノとパーカッションのための」の世界初演でした。作曲家自身のプログラムノートによると、「東日本大震災の犠牲者へのオマージュ(献辞)」として書かれ、4楽章からなる15分ほどの作品です。ソプラノ歌手の奈良ゆみさんとパーカッション奏者の上野信一さんが演奏しました。

第一楽章は「春の日に」と題し、「小倉百人一首」で知られる紀友則の歌「ひさかたの光のどけき春の日にしづこころなく花の散るらむ」をもとに、幻想的な響きで春が表現されます。 一転して第2楽章「2011年3月11日」は、地鳴りを思わせる打楽器の大音響が続くなか、歌手が大災害にかんするフランス語、ドイツ語、ベトナム語の単語を切れぎれに叫び、人々の恐怖と混乱を表現します。

第3楽章「涙」は、これも「小倉百人一首」の道因法師の歌「思いわびさても命はあるものを憂きに堪えぬは涙なりけり」をしっとりと歌い上げます。それは「葬送行進に近いものによって喪を表現」したとのことです。第4楽章「祈り」は、ビブラフォンの透明感ある響きに導かれ、作曲家自身の作詞によるベトナム語の子守唄が歌われます。

ベトナムの音楽家が日本文化への探究を深め、震災犠牲者への哀悼を込めてつくった作品に、聴衆は集中して聴きいりました。

このほか、東洋と西洋の発声技法を組み合わせたユニークな声楽曲「ジオ・ドング」や、「打楽器協奏曲テン・ド・グ」のエレクトーン編曲版など、ダオさんの作品が紹介されました。

演奏の合間には、ダオさんと作曲家の西村朗さんが対談。「東洋の作曲家にとって西洋の記譜法を学ぶことは大切だが、自分は東洋人だという根っこを持つことが大事」と強調するダオさんに対し、西村さんは「エキゾチシズムではなく、伝統文化のコンセプトをとらえることが大事」と応じました。日本とベトナムの音楽界の交流として、貴重な機会となりました。

                                     (小川大洋・ジャーナリスト)