一般財団法人 知と文明のフォーラム

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法曹界なう★1

2011-08-12 07:33:07 | 法曹界なう

法曹界なう★1
司法修習生の給費問題は、まだ終わっていない

                        弁護士 寺本倫子

 最近の法曹界の話題として、司法修習生の給費制廃止の問題があります。政府は、8月4日に、法曹養成改革に関する関係省庁副大臣らの検討会議を開催し、これまで司法修習生に月額約20万円の給料を支払っていたのを、今年度11月に入所する司法修習生からは、希望者のみ無利子の「貸与制」に移行する方針を確認しました。最近こそ、ニュースで話題になっていますので、ご存じの方が大半でしょうけれど、そもそも、司法修習生にこれだけの額の給料が支払われていたことをご存じなかったのではないでしょうか。「給料」は、税金から支払われているのですから、国民にとっては重大な関心事であるべきです。

 司法試験に合格すると、最高裁判所に司法修習生として採用され、修習を行います。身分は、準公務員です。司法修習を経て、卒業直前に行われる試験(二回試験と言われています。一回試験は司法試験のことです。)に合格しないと、裁判官、検察官、弁護士にはなれません。司法修習期間は1998年開始の修習生は2年間でしたが、その後、徐々に短くなっており、2006年からは1年間になりました。研修所の教官(裁判官、検察官、弁護士から任命されます。)が、期間が短くなっても、最低限、どうしても教えておきたいことがあり、削ることはできないので、当然、詰め込み型になったり、宿題型のみになるなど、無理な時間割になるとおっしゃられていたのを聞いたことがあります。

 そもそも、何のために司法修習を行うのかというと、司法試験に合格しただけでは、法律についての、解釈論を学んだに過ぎないわけで、これを実務において生かせるようにするための最低限、必要なことを学ぶことにあります。しっかり勉強してもらわないと困るので、修習期間中のアルバイトは禁止されています。国家の役目として、給料を支払って実務家となるべく能力を身に付けさていたわけです。

 ところが、給費制度を維持してくには税金が投入されるわけですが、国家の財政状況が苦しいことや、司法試験合格者を年々、増やしていることを考えると、今までどおり給費制を維持してよいのか、という疑問が起きてきたわけです。

 裁判所法には、すでに、「司法修習生に対し、その申請により、無利息で、修習資金を貸与するものとする。」と定められています(裁判所法67条の2)。しかし、弁護士会などの強い反対により、議員立法で給与制を1年間延長する裁判所法改正法が成立しました。今回は、政府により、貸与制に移行することが確認されたわけです。

 弁護士会は、これまでに、「給費制の維持」を唱えてきましたが、その理由としては、法曹の育成は国家の責務であること、給費制ではなく、「貸与制」にしてしまうと、司法修習を終えた時点で、多額の債務を背負った弁護士等ができることになる(法科大学院制度に移行したことにより、法科大学院に通う間に、多額の債務を背負っている者が現れていることが背景にあります。)、貧しい人は法律家になることを敬遠してしまうなどが主なものです。しかし、震災による財源問題もあることでしょう、「貸与制」実施がされるのは確実です。

 この問題は、税金の使途の問題のみならず、今後の司法のあり方に少なからず影響を与える可能性があると私は考えています。司法関係者のみならず、広く国民の皆さんに関心を持って頂きたいものです。