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教育委員会の改革

2011年01月16日 | カ行
    穂坂 邦夫(地方自立政策研究所理事長)

 私は2001年から1期4年の埼玉県志木市長時代、全国初の25人学級の実現や、不登校児を学校外で指導するホームスタディー制の導入に取り組んだが、地方の教育改革を阻止する原因が、教育委員会制度にあることを実感した。最近のいじめによる児童・生徒の自殺の問題でも、学校や教育委員会の隠蔽体質が明るみに出た。制度の構造的な欠陥を放置したままでは同じことが繰り返されるだろう。

 今の制度は、文科省→都道府県教委→市町村教委→学校現場という、導線の長い上意下達のシステムになっている。このため、市町村の役割は、所管する小中学校が上からの「命令」通りに義務教育を行っているかどうかをチェックする受動的な「監視機関」になっている。

 また、市町村立の小中学校の教職員は、都道府県が一括採用して派遣し、国の補助を受けて人件費を負担している。任命権のない市町村にとって、校長や教員は指導官庁からの「派遣職員」であり、お仕着せ、玉突きの人事に甘んじ、教員の資質を高める研修も消極的になる。

 こうした構造は、教育の実施主体である市町村や学校現場の創造性を低下させ、双方の一体感を阻害するとともに、責任感の欠如にもつながる。

 制度の理想と現実とのギャップも目立つ。中立性を確保するため、首長は年齢・職業などに著しい偏りがないように教育委員を任命し、委員が合議で意思決定する仕組みになっている。一見理想的だが、合議制では、前例を踏襲したり、曖昧な結論になったりしやすく、大胆な施策に踏み切るのは難しいのが現状だ。

 安倍首相の諮問機関「教育再生会議」でも、教育委員会改革が焦点になっているが、制度の根幹を残したままの手直しでは、改革は一向に進まないだろう。

 国と実施主体の役割分担を明確にしたうえで、教育委員会の「必置規定」を撤廃し、現場の創造性と自己責任を担保した新たな制度を構築する改革が必要である。

 具体的には、新たな教育委員会を設置し、責任者は教育長とするが、首長を「総括的責任者」と位置づけ、教育行政にきちんと関与する仕組みにする。もちろん、中立性を確保するため、直接の指揮権がないことを条例で明確にする必要がある。さら忙、現行の5人程度の教育委員では多様な意見を集約するのは困難なので、10~20人程度の委員で構成する「地方教育審議会」を設け、合議制から審議会制にする。

 同時に、現場の自主権を確立しないといけない。市町村や校長に教職員の採用・任命権を与えれば、多様な資質の教員を確保でき、一体感も生まれる。実態に即したカリキュラムの大胆な編成も認めるべきである。そうすれば、授業に「空き教科時間」を設定し、苦手な教科を集中的に教えるなど、柔軟性のある教育が可能になる。

 国の役割は最小限にとどめ、分権型社会に合った抜本的な改革が急務である。

 (朝日、2006年12月01日。私の視点欄)

    関連項目

教員人事の真相