マキペディア(発行人・牧野紀之)

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上司力

2011年01月24日 | サ行
              柳井正。ファーストリテイリング会長兼社長

 私は日頃から、ユニクロの店長たちに「君らには二つ責任がある」と言っている。一つは、会社をもうけさせること、つまり収益を上げる責任。もう一つは、部下を教育する責任だ。上司の責任は、突き詰めれば、この二つに集約されるといっていい。だが、特に後者を意識していない上司がいかに多いことか。

 仕事をする上で大事なのは、今の自分の地位よりも高いポジションから、仕事を俯瞰することだ。代わりになる人を育成することは、自分の仕事を、大局観を持って眺めるためにも必要だ。しかし実際には、自分の代わりになる人材を、わざと作らないような上司が多い。実力のない人ほど、上司になると、肩書にしがみつき、肩書にものを言わせて、仕事しようとする。部下が命令通りに仕事して当然だと思い、いいなりになる部下を重用する。

 とりわけ一人一人の部下の思いや考え方が想像できない上司は、最低だろう。部下という存在を、ただ自分自身の仕事の手段としか見ることができない。でも本当は、部下の成長こそ、目的なのだ。

 仕事をしていく上で、自分も主役だが、部下も主役である。部下の長所を生かして、チームで力を発揮していくことが求められる。だからこそ、常に部下が主役になれる環境を作ってあげなければいけない。

 今日よりも良い明日をつくろうとチーム全員で考えられるようにするのが、「上司力」なのだと思う。
 (朝日、2011年01月22日)

 感想

 このように明解にまとめて下さったのはありがたいですが、疑問もあります。それは、トップないし超一流の人を養成できるのか、という問題です。

 ファストリでも柳井さんは一時、社長を他の人に譲っていましたが、解任して今では自分で社長を兼任しています。

 他の分野で見ると、メジャーに挑戦した日本人選手で「成功した」と言えるのはイチローさんだけだと思います。

 一般化して言うと、超一流は育成ないし養成することはできない、と思います。一流以下は養成できるかもしれませんが。

 この文で柳井さんが述べている事は、「店長が自分に代わり得る部下を育てる」ということで、要するに「店長レベルの人間」の話です。これを歴史に名を残す超一流の人物の問題にまでそのまま適用する事は出来ないと思います(柳井さんもそうは言っていません)。

 私の知っている狭い範囲で史実を見ますと、本当の弟子で先生と個人的関係のあった例はプラトンとアリストテレスの間くらいです。フロイドとユンクも関係がありましたが、これはけんか別れしました。個人的関係のない師弟関係の方が多いと思います。それは、カントとヘーゲル、ヘーゲルとマルクス、マルクスとレーニンなどです。

 私の尊敬する語学者である関口存男さんも熱心に弟子を育てようとしましたが、見事に失敗しました。

 なぜでしょうか。多分、「素質」の問題だと思います。努力すれば成れるのは一流までで、超一流に成るには素質と努力の両方が必要なようです。しかるに、素質は育成できませんから、超一流は育成できない、となるのです。

    関連項目

思想の相続(単独相続と分割相続)