マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

税制改革の忘れもの

2011年01月22日 | サ行
 新年度(2011年度)の税制改革で目玉になった法人税率の引き下げ。財務省はもともと「税収を確保できた範囲で」といい、3%分の引き下げを主張していた。結局、菅直人首相の裁断により5%分の引き下げで決着したものの、税収減を補う恒久的な財源の見通しのないまま強行突破する形であり、大きな波乱要因を抱えている。

 法人課税は国と地方を合わせて約5%分の税率引き下げにより、40.69%から35.64%になる。この結果、税収は1兆5000億円ほど減る。

 政府は七転八倒して財源を探した。その結果、繰り越し欠損金や減価償却、研究開発における税制上の優遇措置の見直しに踏み切る。また、貸し倒れ引当金の廃止、寄付金の損金否認の拡大なども含め、なんとか約6500億円を補う。

 国ベースの増税に伴い、地方税も約1500億円の増収になるため、こうした課税ベースの拡大で、ようやく計約8000億円の財源を捻出する。

 まだ足りない分は個人への増税で穴埋めせざるを得ないが、それでもあと5000億円ほど、帳尻合わせができていないのが現状だ。

 しかし、本当に財源はないのであろうか。私はそのように思わない。法人税制の改善で、巨額の財源があることを明らかにしたいのである。

 現行の法人税制では、企業が他社の株式を持った場合、受取配当金は課税益金に算入しないでもよい、とする措置が設けられている。法人は個人株主の集合体。だから、法人税は個人株主にかける所得税の代替だとみなし、法人と株主に対する二重課税を排除する、との考えに基づいている。

 しかし、この「法人間配当無税」は、多くの他社の株式を持ち、巨額の配当金を受け取る大企業にとっては、巨大な優遇税制となっている。大企業を個人株主の集合体とみるのは、まったくの幻想であり、経営実態に即さない。こんな優遇策は見直していいのではないか。

 企業が受け取る配当金は次第に膨らんでいる。国税庁の資料をもとにした私の試算では、過去6年間の合計額は45兆7966億円に達し、このうち巨大企業(資本金10億円以上の法人とその連結決算に組み入れられる法人)の分が9割、40兆4344億円を占めている。

 「法人間配当無税」による課税除外分はというと、31兆6938億円あり、このうち巨大企業分が9割、27兆9003億円になる。少なくとも、この巨大企業分は課税対象にすべきで、国ベースの法人税だけで実に、8兆3700億円の財源を失っていると推定できる。

 これを2008年度の1年間に当てはめると、失った財源は推定で1兆9807億円になる。つまり、単年度でも2兆円近い増収額を計上できるということになる。

 場当たり的に財源をあさり、課税ベースをゆがめるのではなく、税制を公正にするだけで、税率の大幅な引き下げができるのだ。

 (朝日、2011年01月19日。富岡幸雄、中央大学名誉教授)