まてぃの徒然映画+雑記

中華系アジア映画が好きで、映画の感想メインです。
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風立ちぬ

2013-11-02 23:46:38 | 日本映画(あ~な行)

零戦の開発者、堀越二郎の姿を、堀辰雄の名作「風立ちぬ」とダブらせて語る、宮崎駿の最新作。「風立ちぬ」といえば、松田聖子の歌が真っ先に思い浮かび、堀辰雄の小説は読んだことがないんだけど、映画を観た後にちょっと読んでみたら、二郎と菜穂子のくだりはそのまんまでした。

飛行機に憧れ、夢の世界でカプローニ伯爵と一緒に空を飛び飛行機について語り合う二郎少年は、成長して東京帝国大学で航空力学を学ぶが、里帰りして東京に戻る途中で関東大震災に遭遇する。地平線の彼方、東京方面に見える黒い煙と赤い空は震災で起きた火災の凄さだろう。二郎は、列車で知り合った女性二人連れを助けて一緒に東京へ歩いていく。

大学を卒業した二郎は、名古屋の三菱飛行機に入り設計を担当する。仕事の経験を積み、ドイツ視察団にも参加して才能を認められた二郎は、海軍の新型戦闘機の設計チーフとなり、日夜仕事に没頭する。そんな二郎の傍らには菜穂子がいた。軽井沢に療養に来ていた里見菜穂子と出会った二郎、実は菜穂子は関東大震災のあのときに、一緒に東京まで歩いて行った少女の成長した姿だった。

お互い惹かれあう2人だが、菜穂子の病状は徐々に悪化していき、東京で倒れた時には大仕事を前にしているにもかかわらず二郎は名古屋から駆け付ける。高原のサナトリウムに入院した菜穂子だが、少しでも二郎のそばにいたいと名古屋に来て、2人は祝言を上げる。設計チーフで毎日忙しく、家にも仕事を持ち帰っていた二郎だが、2人は一緒に暮らしているだけで幸せだった。そして零戦の試験飛行の日。。。

二郎の田舎や軽井沢、そして夢の中の美しい自然の描写にまず目を奪われます。緑の草が風にさわさわとそよぐ様は、自分も風を浴びているかのような感じ。一方、東京や名古屋のような大都会でも、現在と比べるとまだまだのどかな雰囲気が感じられます。

ネット上で話題になった煙草は、当時の風俗を描くのに不可欠なわけで、二郎が病気で寝ている菜穂子の傍らで一服するなど眉をひそめる場面もあるけれど、それも含めての作品なんだから禁煙学会は自らの浅はかさを世間に喧伝しているようなものです。まあしかし、当時の人はもくもくとよく煙草を吸うこと。

関東大震災が描かれているのは、やはり東日本大震災のことがあるからでしょう。あの震災を思い出させるきっかけなのか、それとも関東大震災の後に軍国主義へ傾いていった当時と重ね合せて、右傾化の傾向がある現在に警鐘を鳴らしているのか。

ドイツへの視察に行ったり海外の情報に接する機会の多い二郎や本庄は、欧米諸国との基本的な国力の差というものを痛切に感じています。「30年分を10年で追いつく」明治維新以来、志と才能ある若者は、皆そうした気概を持って純粋に自分の仕事に打ち込んだのでしょう。ただ、ふと立ち止まって後ろを振り返った時には、好むと好まざるとに関わらず太平洋戦争での膨大な犠牲という現実が突き付けられます。

ラストシーンの夢の世界で空襲を受けて燃え上がる街、関東大震災の焼け跡から復興した街が空襲でまたゼロクリアされてしまうその光景は、昭和前半の歴史をまるで存在していないかのように扱う現代日本を皮肉っているかのようです。日本人一人ひとりが、あの時代を良いところも悪いところも含めてしっかりと振り返ることが必要だと思います。

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2 コメント

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TBありがとうございました (tak)
2013-11-04 01:07:53
まてぃさま、初めまして。TBありがとうございました。

これから先、こんなふうに時代を描ける人って出てくるのかな、と思いました。この作品やいろいろ騒がれた発言も含めて、宮崎監督の思いを感じることができますね。
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takさんへ (まてぃ)
2013-11-04 10:11:02
コメントありがとうございます。
メッセージを込めて時代を描きつつ、しっかりとエンタメ作品に仕上げて興業的にも成功させる、
どんな人にとってもハードルが高いことだと思います。
これからの日本人にとっては、戦争とともに震災が原体験になっていくと思うので、いつかきっとそれを反映した作品が作られることでしょう。
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