☽小島ゆかりの月☽
月はわたしたちを詩的な気分にする。とりわけ秋の月は哀愁があり目にも心にも沁みる。現代短歌文庫『小島ゆかり歌集』には魅力的な「月」の歌が多く収められている。その中から私の好きな「月」の歌を4首採りあげてみたい。
✿ 月ひと夜ふた夜満ちつつ厨房にむりッむりッとたまねぎ芽吹く
※ 月と玉ねぎの共通点は球形か。静かな月と芽ぶく玉ねぎのとりあわせ。ただそれけ
でも歌になる。~むりッむりッ~というオノマトペが気が利いていて、オシャレな歌だ。
✿ わかりきつたることがわからぬわが頭上古代鏡のような月出づ
※ 博物館にある古代の鏡はガラスではなく今の鏡のようにはっきりとは映らない。茫々とした
月を「古代鏡」に見立てた、この一言でこの歌は成功しているとおもう。
✿ 帰り来てドアを開ければ月光が盗人のやうに部屋に来てをり
※ 帰宅して部屋に灯をともす前の月明かりの部屋、月光が盗人のやうな、とは独特ですね。
✿ ポストまで遠回りする月のよる切手のなかの駱駝と歩む
※ 月を見ながら私もつい遠回りしますが、下句が冴えていますね。切手が大きくひろがり
シルクロードの月夜の砂漠に読者を引き込んでしまう。
10月27日 今夜は小島ゆかりさんの月を見ますよ。ベランダから。 松井多絵子