殻ちゃん<その⑦>
❤胸の奥にばらが咲いたよセンパイに「アキのこと好きになった」と言われて
あの夜、仕事が終わってからビルの中のあのすし屋で仲間たちと食べた。センパイは配達に出かけていなかった。店を出て、仲間たちと別れてビルの出口に近い通路でセンパイに会った。9時ころだった。誰もいなかったし誰も通らなかった。2人だけの細長い空間。
センパイ◆「久しぶりだなあ。仕事が忙しそうだね」
アキ✿「「オラはもう三陸へ帰ろうかと思ってるんだ。鈴鹿ひろ美さんがオラのために映
画の1シーンだけ出るようにしてくれたんだけど」
センパイ◆「映画に?すごいなあ。」
アキ✿でも20回も撮り直し、鈴鹿さんにアキはダメ。もう使えないって言われたんだ」。
センパイ◆「はじめての映画じゃないか。元気をだせよ。田舎へ帰っちゃダメだよ。俺はアキ
のこと好きになったんだ。応援するよ」。
アキ✿「センパイはユイが好きだって言ったじゃないか。はっきりと」
センパイ◆「ユイとは別れたんだ。今はアキが好きなんだ。」
あの夜は驚いた。何も言わないでセンパイに背をむけてビルを出た。うれしかった。すごく
ウレシかった。でもママの顔を見たら怖くなってきた。オラは1年間ゼッタイ恋はできないんだ。予備校の広告に使ってもらってるから恋愛は禁止なんだ。ママの目は鋭いからなあ。オラの胸の奥に咲いた紅いばらはママに見られないように気をつけないと。
紅バラはいつの間にか枯れてしまってオラはいま水口アキ、三歳の娘のママなのだ。
10月19日 今日はここまで。次回「殻ちゃん⑧」をよろしくね。 松井多絵子