殻ちゃん<その⑥>
❤ あの海が云わせたんだよセンパイにオラのこと好きになって欲しいと
あれは十年も前のことだ。でもアキははっきり憶えている。
アキ✿「センパイ、はっきり言っちゃうよ。オラはセンパイが好きなんだ。オラのこと
好きになって欲しいんだ」
センパイ◆「無理だよ。俺はユイが好きなんだ。アキに会う前からユイが好きなんだ」。 あのとき何故あんなことオラは言ったのか。東京だったら云えなかった。海が云わせたんだ。
それにしてもセンパイから、あんなにはっきり断られるなんて。センパイとユイが妖しいことは何となくわかっていたのに。ユイの方が可愛い顔してるしスタイルもいいし、オラはユイに嫉妬してたのかもしれない。ユイからセンパイを取っちゃいたかったのかもしれない。
東京にもどってタレントとしてオラが少しみとめられた頃、センパイと再会。彼はお寿司屋で板前の修業をしていた。タレントたちがよく利用するすし屋。座敷もあるすし屋。
アキ✿「センパイ、この店の仕事に慣れた?」
センパイ◆「うん、まあ少しね。アキはどうなの?」
アキ✿「たいへんだよ。いまオラは奈落の底。クビになるかもしれないよ。」
センパイ◆「頑張れば何とかなるよ。アキの声はママに似てるから歌はヒットするよ」
アキ✿「そのうちになんて言ってたら、夏ばっぱみたいにバアチャンになるよ。」
お寿司屋でこんなことを、よく話した。おたがいにユイのことを話すのは避けていた。
今日はここまで、 次回もよろしく 10月13日 松井多絵子