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黒瀬珂瀾の英国

2016-07-19 09:26:41 | 歌う

                黒瀬珂瀾の英国

 前川佐美雄賞を受賞した『蓮喰ひ人の日記』は黒瀬珂瀾の歌集である。未来短歌会の選者だが浄土真宗本願寺派僧侶らしい。1977年生まれ、アニメのプリンス的な容姿の彼は気さくな青年だ。以前、飲み会などで冗談を言いあった程度のお知り合い。『蓮喰ひ人の日記』で初めて知ることが多い。国民投票でEUからの離脱を選んだ英国、そこで過ごした日々の日記形式の黒瀬珂瀾の歌集を読む。いま苦渋の英国を思いながら。

 3/11 あれは貴方の国じゃないのかと言はれ、テレビを見上げる。                 

 ♦ 水はあんなに黒くなるのか音の無き画面は暗き朝に開きぬ  

 黒瀬は2011年2月に英国に身重の妻と共に渡り、あの3・11はテレビで知る。ロンドンに居を構え、やがて父となり異郷での3人の暮らしがはじまる。

  5/20 セント・パンクラスで日本人母親の「なかよし会」。

 ♦ 私たちは ロンドンにゐて よかった と子を抱きしめて言ふ 抱きしめて言ふ

 噛みしめるように詠んでいる、「1字空け」の空白から作者の吐息が聞える。黒瀬はまずアイルランドの首都ダブリンに入った。「総選挙が近いのか、街中に候補者のポスターが。「多民族が集う土地での子育て、異文化の中て過ごした十三カ月。帰国を前に思う、この旅の行方は僕にもわからない」 これは帯文の、彼自身の言葉である。

 ♦ テムズには映らぬはずの宮殿を茂吉は見しか王権として 

 ♦ 紅きベレーを被れるごときポストかな時に漱石の愚痴を呑みたり  

、♦ 英国は薔薇か薔薇なら何を病む人が人智を治めえぬ世に

  『蓮喰ひ人の日記』は昨年8月、蓮の花の盛りのころに短歌研究社から刊行されたが、いま英国が混乱している時に、作者の思いが私に切実に伝わってくる。  

               7月19日  松井多絵子         

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