えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

白馬のいる森

2016-07-15 09:08:41 | 歌う

               白馬のいる森

 ♠ 絵の森のはずれに立ちているわれに木々をくぐりて白馬が来る  松井多絵子

 7月13日、奥蓼科の御射鹿池に近づいたのは11時頃だった。標高1100mの高地、あたりはまだ新緑である。行き交う車も人もいない。クラブツーリズムの30名がバスから降りたとき小雨だった。東山魁夷の「緑響く」の絵の中へ入ってゆく。木の根道は濡れて歩きにくい。御射鹿池に近づいた頃に小雨はやみ、辺りの景色が鮮やかになる。

 「緑響く」の絵が大きく大きくひろがり私は絵の中に立っている。あの絵はまさにこの風景だ。この新緑の森が縮小された絵なのだ。スゴイ写実だ。しかし写真とは違う。私はしばし青緑の世界のなかにいた。池の彼方に広がる「緑響く」のなかに白馬がいないことに気つく。あの白馬はいわば東山魁夷のフィクションなのか。この景色に酔いながら白馬をよびよせたのだろう。もし鹿や熊だったら「緑響く」は凡作になったかもしれない。

 東山魁夷は1908年生まれ。その日本画に西欧の雰囲気が漂うのは横浜出身だからなのか。21歳で帝展初入選しその後に美術学校に入りドイツに留学したらしい。早くから本格的な日本画の指導を受けていたら画風は異なっていたかもしれない。「青の風景」「白馬の森」「青葉の季節」などその緑が快く目に染み心に沁みる。夏には緑色のブラウス、白いアクセサリーを身につけたのは昔のこと。今の私は苔色の服を着ることが多い。

      ♠ 白馬(しろうま)の現れることもなくわれは御射鹿の池の汀に佇む

                  7月15日  松井多絵子