ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Moonbeams

2006-06-18 00:59:30 | Weblog
ラファロの後釜としてトリオの一員となった、チャックイスラエルが入ってのトリオとしての最初のアルバムだ。録音はたった一日まあ当時はこれが普通かな。おまけにこの日録った他の曲が別のアルバムにはいっている。ザーッとワンテイクでやるんだね。このアルバムはいわばバラード集だ。こういう企画は当時はコマーシャリズムだとか言われて評価は低かった。今聴くと超立派なジャズアルバムだけど、昔はモダンジャズに対する世間のモチベーションが高かったんだね。音楽にとって、ミュージシャンにとって今と40年前とどちらがいい環境なんでしょう?ボクには分かりません。内容について言うととにかく選曲がいいよね。あとで有名になるビルのオリジナルも2曲入っている。エヴァンスのリハーモナイズはもうコンポーズといっていいレベルだ。この頃のエヴァンスの写真を見るとすごく頬がこけている。事情を知らない頃はスリムでカッコいいなあと思っていたけど、痩せてたのは実はドラッグの影響によるもので、健康状態は相当悪かったらしい。体の調子が悪いとき、感覚が異常に冴えていい演奏が出来ることがあるけど、どうかなあ?今はそんな状態は望まないなあ。ヤッパリ健康がいい。

Undercurrent

2006-06-16 00:17:04 | Weblog
エヴァンスとジムホールの歴史に残るデュオアルバムといっていいだろう。文句なしこのアルバムの企画はプロデューサーの提案らしい。ラファロの死後落ち込んでいたエヴァンスがほぼ一年経って、新しいトリオでの活動もやり始めた頃の録音だ。ジムホールはそれまでエヴァンスとの競演はなかったけど、ビルの音楽には興味を持っていたらしい。それにしても素晴らしいギターだね。リハーサル嫌いのエヴァンスのことだからあまりリハーサルはやってないんだろう。一曲目の"My Funny Valentine"がなんといっても素晴らしいけど、全体を通して言えることは、ふたりの音の少なさだ。これがやってみるとホントできないんだ。ギタリストとのデュオの仕事は何度もやってきたけど、やってるときは、相手の腕がよければ結構楽しいんだけど、後で録音を聞いてみるとどうしても音数が多い。まあピアノとギターという楽器の特性もあるだろうけど・・・。かなりセーブして音を出さないとすぐ音の洪水だ。そんな演奏もずいぶん聞いてきた。仕事をそんなに一緒にこなしてもいないのに、そういった音楽の全体像が見えるというのは、このふたりはやっぱり"グレート"だね。ジャズは即興でアレンジしたり自分のやるべきことを判断するわけだから、そういうセンスが一番要求される。"木を見て森を見ず"というのが一番まずいんだ。気をつけます。

Waltz For Debby

2006-06-13 03:11:22 | Weblog
このタイトル曲はもちろん永遠のスタンダードだ。録音されたのはこのアルバムで4回目。でもライブでもだいぶやってたんだろうね。そういう感じだ。ここに収録されてるレパートリーの中で"My Romance"は死ぬまでやり続けてたね。"Milestones"は後にも先にもこの1回きりだ。この時期はいろんなタイプの曲を試してたんだろう。でも全部'ビルエヴァンストリオ'の音楽だ。それがなんといってもすごい。それと1曲目の"My Foolish Heart"にみられるようなキーの選び方だ。エヴァンスは時々あるね。この曲にシャープ3つがなぜ合うと感じたのか、まあベースが開放弦を使えるのはあるけど、それにしても独特の鋭い感性だ。かけだしのピアニストにとって移調は頭痛の種でクリアーしなければいけない大問題なんだ。仕事がやっていけないからね。でもそのハードルを越えると自分の弾く都合だけでなくその曲にどのキーが適しているか冷静に音楽的に判断できるようになる。相当のトレーニングが必要ですが・・。まあこの名盤もそうした小さなことの集大成なんだね。このバンドがスゴイことはエバンス自身も充分認識してたようで、それだけにこのセッションの10日後、ラファロが事故死したことがビルに与えたショックは強烈だったみたいだ。本当になんという悲劇だろう。

Explorations

2006-06-12 01:53:50 | Weblog
このアルバムは'61年の2月の録音で、ヴィレッジヴァンガードのライヴの4ヶ月前になる。ラファロとポールモチアンとのトリオのサウンドが形作られる初期の感じだね。マイルスの作った"Nardis"もこのときが最初の録音だ。この後エヴァンスはこの曲を死ぬまでやってたね。全体の音楽的内容をいうと、他人の曲を独特のリハーモナイズする方法や独自のヴォイシングのやり方が完成しつつある。とにかく上品だね。当時はボビーティモンズらのソウルスタイルともいうべき弾き方が流行っていたから、ビルのこの音楽のやり方は賛否両論あったんだろう。でもとにかく考え方が筋が通っているから認められるんだね。奇をてらわないんだ。この録音はニューヨークでのスタジオ録音だから、ある程度コンパクトでおさえた演奏になるのはしょうがないんだけどそれにしてもおさえてるよねえ。まあ奥の方にあるパワーは感じるからこれはこれですばらしいけど・・・。レコーディング当日ビルは頭痛に悩まされてたそうだ。それにラファロとは音楽以外のことでずっと言い争いをしていて、おまけにラファロはいつも使っているベースを修理に出していて、借り物の楽器だったので恐がってあまり高音を使っていない。それでも何十年もたった今でも名盤だ。音楽に大事なのは、確かな方向性と信念、そして高い技術だということだ。その日の調子云々はあまり関係ないね。ちょっと違った面が出る。ただそれだけだ。

Everybody Digs Bill Evans

2006-06-07 11:17:57 | Weblog
このアルバムは'58年の録音だから、ビルがマイルスバンドに入る前だ。サイドメンはサムジョーンズと、エヴァンスをドラッグの世界に引きずり込んだあの有名なフィリージョージョーンズだ。フィリーとはよほど気が合うのか、ずっと後になってもやってるね。このリズムセクションのサウンドは、後のビルエヴァンストリオのサウンドとは程遠いけど、ビルは気持ちよさそうに弾いてる。基本的にリズムがスウィングしてるからね。スタイルは関係ない。アルバム全体の感じはあまり筋は通ってない。でも音楽はしっかりしてるし、ピアノ技術は超一流だ。この頃すでにビルは後でスタンダードになる曲をすでにオリジナル曲としていっぱい持っている。このアルバムの中の"Peace Piece"は"Kind Of Blue"の中のフラメンコスケッチの基になった曲だ。トニックの部分は長7度音と根音をぶつけて、5度音をアヴォイドする、ドミナントの部分は4度音をサスペンディッドさせて9度音を長2度でぶつける、簡素この上ない、いい響きだ。マイルスもこれに目をつけたらしい。本当にエヴァンスらしい音だ。この頃のエヴァンスは稀な才能をもったピアニストとしてミュージシャン仲間から注目されていたことがよくわかる。それにしてもマイルスも言ってるようにこんないいミュージシャンがなぜドラッグにはまってしまったのか、ホント悲しい。フィリージョージョンズのドラムは最高だけど、ビルにヘロインを与えたのだけは許せないね。