このアルバムが創られた頃は、モダンジャズが新しい方向に向かって動き出していたいわば流動期だ。パーカーというカリスマが死んで数年、ジャズの新しい秩序が必要だった。このアルバムはキャノンボールのリーダーアルバムだけど、やはりサウンドという意味では当時のマイルスバンドの影響を受けている。一曲目の「Autumu Leaves」のイントロは今では超有名なジャズのイントロのひとつだけど、確かによくできている。マイナーキー、要するに短調の時の6度音の扱い方は非常にあいまいで、またそのあいまいさを利用してバッハもショパンも音楽の表現の幅を広げてきた。このイントロはジャズの中でのマイナーキーの6度音の使い方の新しいアイデアだ。この曲はGmだから問題になるのはE♭とEだ。短調というのは、かなり人工的にできたもので半音階的なアプローチが許され、またそれを利用しないと音楽が窮屈になってしまう。またエオリアスケールに近いけど、そうではない。E♭はエオリアらしさを出すいわば性格音だ。Eはドリアンスケールが匂ってしまう。結局短調の音楽はそれらを和声や旋律にうまく使い分けて独特の位置を築いてきた。この「Autumn Leaves」のイントロのE音の使い方は、その短調の音楽の中のアカデミズムをモダンジャズの中で消化した新しいアイデアだ。そのポイントになっているのは「Jazzy」という詩的な言葉であり、オーバーに言えば哲学的な言葉だ。この言葉とこの音楽の匂いがジャズサウンドであり、これにジョージガーシュインもストラヴィンスキーも衝撃をうけたんだ。具体的には三全音の使い方の多様性だろう。進化しつつあったモダンジャズは単なるポップミュージックではなく20世紀の「現代音楽」としての価値を確立しつつあった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます