ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Ⅳ Cantaloupe Island

2007-11-06 00:03:49 | Weblog
今日は3曲目の「Cantaloupe Island」について・・・。この曲は'64年のブルーノート盤「エンピリアン アイルズ」に収録されたものだ。このアルバムは当時のマイルスバンドのリズムセクションにフレディーハバードを加えたクァルテットだ。このアルバムには他に「Onefinger Snap」も収録されている。「Cantaloupe Island」はB面にむしろこっそりと入っている。でもリリースされた後、いろんなバンドがカヴァーというかこの曲をレパートリーにしレコーディングもよくされるようになった。'93年だったと思うけど、イギリスのUs3というバンドのカヴァーヴァージョンがヒットしていた。30年ぐらい前だけどハービーのこの曲のバッキングをコピーしてさんざんやらされていたから、このカヴァーを聞いたときは変な気分だった。何故今頃こんなものが流行るんだろう?新しくもなんとも感じなかった。この曲のおかげでイギリスのこのバンドは潤ったかもしれないけど、音楽的には何も残さなかった。バンドの名前が売れた。印税が入った。それだけだ。本当に新しい音楽、新しい芸術が世に現れた時というのは、世間の反応というのはこういう感じじゃないんだ。もっと意見が割れる。チャーリーパーカーが現れた時、拒否する人はいっぱいいた。話はさかのぼるけど、現在では押しも押されもせぬ「楽聖」とされているベートーヴェンも当時は新しすぎたのかすぐには認められなかった。イノヴェーダーの宿命だ。'60年代の終わり頃、ハービーがマイルスバンドにいた最後の1年ぐらいだと思うけど、ジャズ界は大変革期だった。その中心人物はもちろんマイルスディヴィスだ。マイルスの新しい音楽についていろんな評価が飛び交っていた。ボクは10代でまだ部外者で人のいうことを「へえー」と聞いていただけだ。理由もわからず、エレキピアノを使ってマイルスバンドのマネをしていた。でもとにかく聞くだけじゃなく無茶苦茶な演奏であっても新しいルールの音楽をやってみたおかげで、あとになって、そのころのみんなの混乱の理由が分かるようになった。'70年代になってその混乱はますます拍車がかかってしまった。今起きていることを冷静に把握できるのはごく限られたミュージシャンだけになってしまった。でもそれが芸術の最先端なんだ。今はそう思う。このハービーの「Cantaloupe Island」も新しいものに挑戦している緊張感と混乱がある。だからいいんだ。


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