国も家族も失った男が家族を求めるが、それが困難の始まりだった。男の苦悩と再生を描く作品。男の苦しめたものが明らかになるにしたがって、物語は立ち上がり、男の再生に感動する。名作である。
脚本:リチャード・カリノスキー
演出:栗山民也
出演:眞島秀和、岸井ゆきの、久保酎吉、升水柚希
アラムはアルメニア人。迫害によりアメリカに亡命してくる。その舞台はミルウォーキーの男の住処。アラムは、写真だけで選んだ同じアルメニア人の孤児の少女・セタを妻として自分の元に呼び寄せる。二人の間に新しい家族ができなかった。ある日、セタは孤児の少年を家に招く。アラムはそれに激怒するが、少年との出会いにより、少しずつ変わっていく。やがて彼が大切に飾る穴の開いた家族写真に対する思いが明らかになっていく。
私が同日に見た『タージマハルの衛兵』は「個」と「全体」をテーマとしたシリーズの作品だった。『月の獣』を見て、「個」と「全」の間には「家」があるということに気づかされた。「個」にとって「全体」、合わなければ敵になる。しかし「個」にとって「家」は合わなくとも決して敵にはならない。苦しくなるだけだ。この苦しみは普遍的なものである。「家族」というテーマが迫ってくる。
私も自分の生き方について振り返る時間が増えてきた。自分にとって大切にすべきものは何か。そして今からでもその大切なものを得られるような生き方ができないものか。それを語りかけてくれるようなすばらしい舞台だった。
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