
2023年、歌舞伎座の新春歌舞伎第二部を観劇しました。見たかったのは黙阿弥がイギリスの劇作家リットンの「マネー」という戯曲を翻案した『人間万事金世中』。明治期に伝統的な江戸文化を土台としながら、どのように西洋文化を取り入れていったか、つまり日本の近代文化がどういう風に生成していったのかを考えるのに重要な作品ではないかと思い見に行きました。
【あらすじ】
恵府林之助は叔父の辺見勢左衛門のもとで居候として身を置いていた。勢左衛門は金に汚い男で、甥に当たる林之助も店の丁稚同様に扱っている。その林之助に莫大な遺産が入る。その遺産をもとに商売をはじめようとする。
そこに勢左衛門が訪れ、自分の娘を嫁にもらえと言う。もちろん林之助の財産目当てであった。そんなところに、寿無田宇津蔵という男が弁護士の口の上糊を連れて訪れる。宇津蔵は林之助の父親に大金を貸していて、利子も含めて返せと言う。林之助はその話に従い、すべての財産をなくしてしまう。勢左衛門はあきれて帰り、縁談も消えてなくなる。
しかし実はそれは林之助の演技であった。林之助は勢左衛門とのくされ縁を断ち切るために演技したのだった。
正直言って特別おもしろい作品ではありません。黙阿弥らしい奇抜さも残忍さもない。とりたててどうという話ではないのです。おそらく林之助が受け取った遺産を全部人にわたす芝居をする場面がこの芝居の肝となるところなのでしょうが、それもうまく処理できていません。どう上演すればいいのかわかりにくい脚本です。
「近代」という時代がリアリティを求め、そのために無理な設定を採りにくかったという事情があったのだと思われます。しかも翻案であり、ストーリーの制約もある。西洋の演劇をまずは日本でやってみたいという意図もあったのかもしれません。しかしなにか中途半端に終わってしまっています。
そこに明治初期の日本の演劇人の苦悩を見えてきます。その意味で貴重な作品です。
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