
振り込め詐欺の被害にあった男性が、その顛末を本人が被害者役そのものを演じる映画『ジェリーの災難』を見ました。意外にも人情ドラマの要素が強い映画で、予想を裏切る佳作でした。
ある高齢男性が振り込め詐欺に騙されてしまいます。男には別れた妻がいます。別れたといってもいまでも良好な関係でいます。息子が3人います。息子たちとも時々会い、お互いに助け合って生きています。彼らは父親の様子の変化を感じるのですが、詐欺にあっているとまでは考えません。
結局男は日本円で1億円ほどの全財産を犯人に送金していまいます。男は破産状態になり、生まれ故郷の台湾にもどることになります。しかし、その時、意外な事実が判明します。男は認知症に犯されつつあったのです。息子たちは父親を主演にした映画を撮ることを考えます。そしてそれがその男の詐欺被害を描くものだったのです。実はこれは息子たちの父親に対するプレゼントと言っていいものでした。なぜなら、男は昔から家族をビデオに残し、映画のような作品を作っていたからです。父が自分たちを撮ってくれたように、最後に父親を映画の主人公として撮ってあげたのです。
つまり、この映画そのものが、認知症を患った詐欺被害にあった男が、その被害者役そのものを演じて映画に出演する姿を描くドキュメンタリー映画でもあったのです。ドラマとドキュメンタリーがオーバーラップする発明的な映画だったのです。
男の家族への思い、自分の病気の症状、騙される心理、男の演技はすべてリアルなものです。それによって、単なる詐欺の話でも、単なる病気の話でも、単なる家族愛の話でもなくなり、これまでにない人間賛歌の映画に思えるのです。
いい意味で騙された感覚になる素敵な映画でした。
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