いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。
【源氏物語】
説明するまでもないでしょう。源氏物語の冒頭の一文である。
【品詞分解】
いづれ 代名詞
の 格助詞
御時 名詞
に 断定の助動詞・連用形
か、 係助詞
女御、 名詞
更衣 名詞
あまた 副詞
候ひ ハ行四段活用・連用形
給ひ 尊敬の補助動詞・ハ行四段活用・連用形
ける 過去の助動詞・連体形
中 名詞
に、 格助詞
いと 副詞
やむごとなき 形容詞・ク活用・連体形
際 名詞
に 断定の助動詞・連用形
は 係助詞
あら 補助動詞・ラ行変格活用・未然形
ぬ 打消の助動詞・連体形
が、 格助詞
すぐれ ラ行下二段活用・連用形
て 接続助詞(または「すぐれて」で接続助詞)
時めき カ行四段活用・連用形
給ふ 尊敬の補助動詞・ハ行四段活用・連体形
あり ラ行変格活用・連用形
けり。 過去の助動詞・終止形
【現代語訳】
いつの帝の御時代であったでしょうか、女御や更衣がたくさんお仕えなさっていた中に、とても高貴な身分ではない方で、(桐壺帝により)格別に寵愛されなさった方(=桐壺の更衣)がいた。
【断定の助動詞「なり」の連用形「に」について】
「にか」「やむごとなき際にはあらぬが」の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形です。
断定の助動詞「なり」は「り」で終わる助動詞だから、推測できると思いますがラ行変格活用型の活用をします。「なら、なり、なり、なる、なれ、なれ」です。ただし、連用形に「に」が加わります。ナリ活用の形容動詞と同じ活用になります。
さて、この連用形の「に」はどういうときに使われるのでしょうか。
もともと断定の意味は「に」にありました。現代語における「だ(で)」と同じです。そこに「ある」が加わり、「である」という言葉が生まれたのです。古代語でも「に」に「あり」が付き、「にあり」から「なり」が生まれたのです。ということは多くの場合、「に」のあとに「あり」がある場合は、その「に」は断定の助動詞「なり」の連用形だと判断してよいのです。
にはあらぬ。
にしもあり。
にこそあれ。
にやあらん。
にかあらん。
などの例の「に」は、ほとんどの場合「断定」の助動詞「なり」の連用形です。(場所を示す格助詞の「に」の可能性もあります。)
この中の「にこそあれ。」は「にやあらん。」「にかあらん。」は頻繁に使われるために、「にこそ」「にや」「にか」と省略されることがよくあります。ですから。
にこそ。
にや。
にか。
の「に」も断定の助動詞「なり」の連用形と考えます。これを「結びの省略」といいます。
(つづく)