【「女御」と「更衣」】
「女御」と「更衣」は天皇の妻です。
天皇の妻で一番身分の高いのは「皇后」「中宮」です。「中宮」は「皇后」の住む場所であり、本来「皇后」=「中宮」でした。しかし天皇に同格の正妻を二人置く必要があったために、「皇后」と「中宮」を別の存在とするということをしてしましました。『枕草子』で有名な中宮定子と、藤原道長の娘である皇后彰子のことですね。一条天皇には中宮(皇后)定子という「正妻」格がいたのに、道長が無理矢理彰子を「正妻」格にするために「皇后」という身分を「中宮」とは別のものとして作り上げたのです。
「女御」は「中宮」の次に身分の高い妻であり、「更衣」はそこまでは身分が高くはありません。身分とは言っても、自分の身分というよりも父親の身分に準じています。
この後に出てくる「いとやむごとなき際にはあらぬ」女性が天皇に愛されるわけです。この設定が物語を作り上げます。
身分違いの愛が源氏物語の大きな柱なのです。
さらに、中宮が存在しなかったということも設定としては重要です。天皇の妻がさまざまな火種になることが予想されるのです。
【「いと」】
「いと」は「とても、たいそう」という意味ですが、ここでは違う意味になります。「いとやんごとなき際にはあらぬ」の「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形です。「いと」が打消語を伴った場合、意味は「あまり」になります。
だからここは「あまり高い身分ではない方」になります。
【同格の格助詞「が」】
「いとやむごとなき際にはあらぬが」の「が」は格助詞です。おそらくみなさんは逆接の接続助詞だと思うでしょう。しかしここは接続助詞ではないのです。格助詞です。なぜこの「が」が接続助詞ではないのでしょう。それは接続助詞の「が」は平安時代の後期に成立したからです。源氏物語が書かれた時代にはまだ接続助詞の「が」は存在しませんでした。だから格助詞と考えるしかありません。
格助詞の「が」と「の」の用法は、
①主格(~ガ)
②連体修飾格(~ノ)
③同格
です。
現代語では「が」は主格、「の」は連体修飾格です。しかし平安時代はその使い分けはなく、「が」も「の」も主格でも連体修飾格でも使われました。
「が」「の」の用法で、現代語ではなくなってしまった用法が「同格」です。「が」と「の」の前と後ろが同じものの性格が記されています。
ここでは「いとやむごとなき際にはあらぬ」と「すぐれて時めきたまふ」が同じ人を指していることになります。