とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

劇評『たとえば野に咲く花のように』(4月23日昼 新国立劇場)

2016-04-24 06:47:25 | 演劇
 新国立劇場小劇場で『たとえば野に咲く花のように』を見ました。作、鄭義信。演出、鈴木裕美。キャスト、ともさかりえ、山口馬木也、他。
 
 とても素晴らしい作品でした。感動しました。

 太平洋戦争が終わり、朝鮮戦争の時代の話。登場人物たちは過去に大きな傷を持っている。ダンスホール「エンパイア」の女給、満喜は在日韓国人。弟が戦時中、日本の憲兵となり祖国を裏切ったという思いから逃れられない。一方すぐ近くのダンスホール「白い花」の支配人安部康雄は、かつてガダルカナルで米を奪うために仲間を殺していた。そんなふたりがひかれ合っていく。

 痛みを持った人々はその痛みを忘れようとしながら生きている。だから愛を求め、心の平和を求めながら必死にもがいている。しかし過去の傷は人に不信感を与え、時には憎しみ、時には裏切り、折り合うことを知らない。人に自分の過去の過ちを知られたら、自分の立つべき場所を失う。もはやその人の前から消えるしかない。しかしも過去の過ちがあるからこそ、その傷の痛みを共有できその人をさらに愛しく思う。

 登場人物の心が切実に伝わってきました。泣けてきました。

 あの時代、みんなが食べることに必死だった。生きることに必死だった。みんなが本音を出し合って生きていた時代。傷つけながら絆を築いていった。今はどうなのか。きれいごとのおとぎの国のような世界で本音を隠しながら、平和の幻想をみんなでなんとか支えているだけではないか。この幻想をささえられない人は、体よく排除されるシステムを作り上げてしまった。今はもうドラマという言葉も死語となってしまったのか。

 ともさかりえさんは、昔からいい役者だと思っていましたが、また幅を広げたように思います。どんな心も表現できる。すばらしい。そのほかの役者さんも、みんなすごかった。

 とてもいい作品に出合えました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする