中日新聞の介護シニアという欄に「柴犬フランス歩記(あるき)」というコーナーがあり「文化が身体をつくる」というタイトルで浅野素女(あさの・もとめ=フリージャーナリスト、指圧施療師)さんが投稿されていました。
もう四十年前、初めてのフランスで疲れるなーと思ったことは、立っていることが基本の文化だということ。
畳の文化からやってきた私は、床に座るとホッとするし、すぐに椅子を勧められることに慣れてしまっていた。
立つ姿勢が続くと、つい腰かけたくなる。
ところが、こちらでは長時間立っていても、みな平気の平左。
立食パーティーはもちろんのこと、ちょっとした会合、永遠に続く立ち話、結婚式やお葬式など、立っている時間がやたら多いのである。
デモに参加した時は、隣にいた七十五歳くらいご婦人がデモ集団の出発を立ちん坊で二時間も待ち、その後さらに三時間、最後まで音を上げずに歩き通していた。
二十代からこの国で生活しているのでさすがに慣れたものの、いまだ家でリラックスする時は、ソファの上に横坐りしたりあぐらをかいたりしているのだから、身体に染みついた習慣というのは早々に消えるものではないらしい。
座る文化の国と立つ文化のちがいは骨格にも影響を及ぼしている。
百年前とは比べものにならないにしても、日本人の足首のやわらかさはいまだ別格である。
指圧をフランスで学んだ私は、同期生のフランス人が正座はもちろん、跪座(きざ)の姿勢を取るのにさえ苦労しているのを見てきた。
赤ちゃんの時から革靴をはかせる文化だから、早々に足首が固まってしまうのか。
その代わり、立っている時には骨盤がすらりと伸びている。
足をさっと前に放り投げるようにして、颯爽と歩く。
足を引きずりぎみに歩く日本人は、靴をはいても身体の方はいまだ着物文化を引きずっている。
それぞれの文化がそれぞれの身体をつくっている、
以上です。
日本人に生まれて、日本に育った私としては今更フランス人文化に変われません。
でも、フランス人のように足をさっと前に放り投げるようにして、颯爽と歩きたいです。
糸 - 桜井和寿 BankBand